今年4月には、複合的な困難を抱え孤立した女性たちを支援する困難女性支援法が施行された。「孤立出産など困難な状況下にある女性たちへの差別意識の解消や福祉の充実を期待している」(清末さん)(写真:Getty Images)
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 未受診妊婦が自宅で流産や死産をしたら逮捕される事態や、障害のある女性が出産すると「無責任」と非難される現実。困難を抱える女性たちに「正しい」母親像を押し付け、他人の妊娠出産をジャッジする空気はどこから来るのか。AERA 2024年6月17日号より。

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 あなたが思いがけず妊娠したとする。だが、病院に行くことを決心できないまま、ある日流産してしまう。誰の身に起きても不思議ではない状況だろう。しかし、それが妊娠17週を迎えていたら──。

「胎内から出てきたものが人の形をしていれば、死体遺棄罪で警察の取り調べの対象になり得ます」

 こう話すのは弁護士の石黒大貴さんだ。石黒さんは、2020年11月に本県で起きた技能実習生双子死産事件の主任弁護人を務めた。最高裁まで争ったこの事件も、予期せぬ妊娠と突然の死産により女性が逮捕されたことが始まりだった。

 技能実習生だった女性(当時21)は妊娠を周囲に相談できないまま、自宅での突然の早産の末、双子の赤ちゃんを死産。その後、死体遺棄容疑で逮捕、起訴された。女性は無罪を主張。裁判で争点となったのは、外国出身の女性の赤ちゃんの亡骸(なきがら)の取り扱いをどのように法解釈するか、だった。

 女性は双子の赤ちゃんの遺体をタオルで包んで段ボールの箱に寝かせ、赤ちゃんへの手紙を入れ、遺体が寒くないようにと箱を二重にし、ふたをセロハンテープで留めてキャビネットの上に置いた。それが一審では「周りに助けを求めなかった」を理由に、二審では箱を上からセロハンテープで留めたことが「第三者から遺体が見つかりにくい」との解釈で、有罪となった。

心身に傷負った状態で

 対する弁護団は、女性の赤ちゃんに対する弔いの感情に基づいた行為で遺棄罪にあたらず、また、遺棄罪の規定の不明確さや葬祭手段を選ぶ信教の自由、「国民はすべて個人として尊重される」と定める憲法13条から、妊娠を明かせなかったことを罪に問うべきではないとして上告。23年3月、最高裁は逆転無罪の判決を下した。だが、ほかにも同様に病院外の流産や死産で取り締まられたケースは後を絶たない。23年1月には、20歳の女性が東京都新宿区歌舞伎町に近いアパートで流産。妊娠SOSの電話相談を受けた熊本市の慈恵病院が都内の協力病院に保護を要請。救急搬送されるとその後、女性は産婦人科のベッドに腰かけた状態で刑事から4時間、取り調べを受けた。

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