父・忠男から秘書時代の話を聞いたのはほんの数年前だ。「世の中はどうしても強い人の声を聞く。声なきものの声を聞かなければいけないと改めて思いました」(写真:今村拓馬)

 障害者に最低賃金を払うパン屋を開きたい、と協力企業を探した。門前払いも多いなか、手を差し伸べてくれたのが「敷島製パン」(名古屋市)。パン製造のノウハウを教わり、知的障害のあるスタッフ3人を含む5人を雇用し、2003年に豊橋市の商店街にパン屋をオープンした。

 が、大きな試練が待ち受けていた。

 夏目安矢子(46)は信金時代に夏目と出会い、結婚。おなかに第1子を宿しながらパン屋を手伝うことになった。「とにかく大変だった」と振り返る。朝3時から仕込みをしてパンを焼いても、最後の最後で焦がしてしまい全てがダメになることもしょっちゅう。高温のオーブンでのやけども絶えない。売り上げが伸びなくても約束した賃金を支払い、人件費も重くのしかかった。あっという間に借金が1千万円を超えた。それでも投げ出すわけにはいかなかったと安矢子は言う。

「うちの子も働かせてほしい、といってくださる方が多くいらっしゃったんです。まだ20代だった私たちを信頼してくれる方たちがいる。一度始めたことを、やめるわけにはいかなかった」

(文中敬称略)(文・中村千晶)

※記事の続きはAERA 2024年4月15日号でご覧いただけます

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