重度の障害のある人たちが働くパウダーラボ。材料を切る、混ぜる、砕くなどそれぞれが適材適所で能力を開花させるラボの雰囲気はあたたかく、笑顔に溢れている。(写真:今村拓馬)

内向的だが負けず嫌い 起きたくない朝もある

 もともと夏目はチョコレートの専門家ではない。大学でバリアフリー建築と出合い、当時「障害者の全国平均月給が1万円」という安さを知って衝撃を受け、状況を変えようと行動を始めたのだ。2003年に前身となるパン屋をオープン、さまざまな失敗を経て、チョコレートとの出合いがすべてを変えた。14年にスタートした「久遠チョコレート」はいまや全国60拠点、年商18億円にまで成長している。だが14年当時を知る統括マネージャーの山本幸代(54)は「逆風の時代は長かった」と振り返る。

「風向きが変わったのは本当にここ4、5年です。それまでは『障害者を利用して商売をしている、きれい事だ』とか、福祉関係の重鎮たちからは『助成金のなかでやればいい、何を一人で騒いでいるんだ』と直接言われたこともありました。でも夏目さんは負けず嫌いの塊ですから、怒りのベクトルが『やってやる!』につながる。向こうが思っている以上の答えを出して『ほら、想像していたのと違うでしょ?』って。そういう人なんです」

170種以上あるQUONテリーヌ(写真:今村拓馬)

 当の夏目は自身を「内向的で気が小さいんです」と分析して苦笑いする。

「そのくせ負けず嫌いで頑固。スイッチが入ると突っ込んでいっちゃうんですけど、あとで『ああ~、またやっちゃった!』ってなる。起きたくない朝もいっぱいあります(笑)」

 自分はいたって普通の人間。なにも特別なことをしているわけじゃない。だからみんなにもこれが普通にできることなんだと気づいてほしい。そう夏目は繰り返す。しかしここまでの道のりは平坦ではなかったはずだ。障害のある家族がいたわけでも、障害者と身近に接してきたわけでもない。いったいなにが夏目を動かしたのだろう。

 夏目は1977年、豊橋市に生まれた。3歳上の兄がいる。子どものころから頑固で負けず嫌い。いろいろアイデアを考えるのが好きで、小4のとき担任から「発明家で賞」を授与されている。

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