IR計画の前に啓発が必要 若い世代がオンラインで
ギャンブル依存症の治療はどうすれば良いのか。国立病院機構久里浜医療センターの松崎尊信医師は、患者が個別や集団で議論をする「認知行動療法」を実施すると話す。
「ギャンブル依存症の人は、『ずっと賭けていれば必ず勝てる』『こうすれば勝てる』などといった特有の考え・思考が強固に沁みついています。この考え・思考を切り替えるためにテーマに沿ってスタッフと個別に、あるいは集団で議論しながら自身の行動や考えを振り返るのです。例えばギャンブルのメリットとデメリットを考えてみてデメリットの方が大きいことに気づけると、ギャンブルをやめる動機づけにつながります」
だが、長年の間に沁みついた考え・思考の修正は簡単にはできない。治療を続けないとギャンブルを再開する率も高まる。依存症に特効薬はないと言われるゆえんだ。
「ギャンブルの記憶や行動をゼロにすることは難しく、仮に10年間やめていたとしても再開の可能性を完全になくすことはできません。しかし、継続的な通院や、全国にあるギャンブル依存症の自助グループに参加しながら自身のギャンブル問題を意識し続けることで、依存症から回復していくことは十分に可能なのです」
日本にはギャンブル依存症が疑われる人が約300万人いるとされる。大阪では2030年開業をメドに、カジノを含むIRの計画が進む。常岡氏はこれ以上の患者を出さないため、ギャンブルには依存症になるリスクがあることを啓発する必要性を訴える。
「ギャンブル依存症で診察に来る人たちは、ギャンブルにはまる病気があることを知らなかったと言います。知らなければ、病気になったことを責められません。ギャンブルには依存症のリスクがあると義務教育で教え、公営ギャンブルにもきちんとリスクを表示すべきです」
とくにいま危険なのは、若い世代を中心に増えているオンラインカジノだ。国内から接続して賭博を行うことは犯罪だが、十分に知られていない。そのため、スマートフォンから気軽に海外のオンラインカジノへ賭けてしまい、依存症になる人が急速に増えている。
「24時間賭けられるうえ、現金も必要ないため現実感が薄い。年収の何倍もの借金をして一気に破綻するケースが多く、診察に来る患者も増えています。自分が危ないと思ったら隠さず、すぐ専門の病院や自助グループに来てほしい。そうすれば被害も少なく済み、治療も楽なのです」
(ライター・形山昌由)
※AERA 2024年4月15日号より抜粋