「脳の中には報酬系と呼ばれる快楽を感じさせる回路があり、楽しさを感じるとドーパミンが放出されます。本来ならいろいろな楽しいものに出るのですが、依存症になるとうまく調整ができなくなり、依存対象にだけ敏感に働くようになる。その対象がギャンブルなら賭け事をやめられなくなります。なぜそうなるのか原因ははっきりしませんが、抱えているストレスがギャンブルで忘れられた経験をすると、ギャンブルにはまっていく傾向にあります」

 ギャンブル依存症の患者は男性が9割を占め、対象は競馬などの公営ギャンブル、パチンコやスロット、FX(外国為替証拠金取引)、オンラインカジノなど多様だ。子どものころに賭け事をする人が身近にいる環境で育った場合も、ギャンブル依存症になりやすいことが分かっている。

 神奈川県在住のAさん(57)も、ギャンブル依存症に苦しんだ経験を持つ一人だ。

 Aさんは高校生のとき、受験から逃避するためにパチンコを始めた。大学病院の事務職に就職すると、今度は競馬にはまるようになる。生活費や家賃にも手を付けていた。「そんな賭け方をしてはいけない」と注意してくれる先輩の忠告にも耳を貸さなかった。

「こんなことをしていたらダメだ」と思いながらも、同じことを繰り返す。手を出した消費者金融の借金が返せない状態に追い込まれたとき、仕事で集金したカネに手を付けるようになった。繰り返すうちに、横領額は1300万円にまで膨れ上がった。1年半後に発覚して仕事を首になった。別の病院に再就職して心機一転を誓うが、再びパチンコと競馬通いが始まる。職場のキャッシュカードを無断で持ち出し、3度金を引き出した。盗みが発覚して逮捕。裁判では懲役1年6カ月、執行猶予3年の判決を受けた。

 判決後、ギャンブル依存症の自助グループに通い始めたことで、現在まで22年間ギャンブルをやめ続けることができている。Aさんは自助グループの役割をこう話す。

「依存症の人たちが集まり、それぞれの体験を話し合うことで気づきを見つけることができる。ほかの人の体験談を聞き始めたころは正直『変な考えだな』と思っていたのですが、あるとき『このおかしな考えは自分と同じだ』と気づきました。自分が変わり始めたのはそれからです」

 Aさんは現在もギャンブル依存症の自助グループ「ギャンブラーズ・アノニマス」に通い続ける一方、回復者として再就職を果たすことができた。現在、数百人の部下を持つ立場にいる。

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