撮影:タカオカ邦彦

手間も時間もかかる撮影

撮影の際、タカオカさんが大切にしているのは、現場を体感することだという。そのため、必ず取材の前日に現地入りして、ロケハンを行う。

「その地域がどんな場所であるかを体感して、写真に気持ちを込めるんです」

記事にはどんな写真が必要か、あらかじめ編集者と打ち合わせをしたうえで現地を訪れる。しかし、タカオカさんの撮影はそれにとどまらず、現場で見つけた独自の視点をもとに、納得いくまで撮影する。

「決まりきった写真しか撮影しなかったら、写真に対する熱量がなくなっていくと思うんです」

取材後、「自分の写真」を編集者に見せると、誌面に使ってくれることもある。

「そんな編集者がいたからこそ、この撮影を続けられた。でも、思い入れが強ければ強いほど、撮影には手間もかかるし、時間もかかる。効率は悪いです」と言い、笑う。

農家の撮影は雑誌の仕事にとどまらない。タカオカさんは仕事を通じて知り合った農家に手紙を書いた。

「お礼は写真を差し上げることしかできないんですけれど、個人的に撮らせてもらえないか、とお願いすると、ほとんどのみなさんは快くOKしてくれました」

撮影:タカオカ邦彦

写真を通じて交流を続けたい

タカオカさんは農家の撮影のほか、「男の貌(かお)」シリーズにも組んできた。それは、「自分が、いいな、と思う男性のワンショットにこだわって」、1枚の顔写真で表現する作品だという。

これまで著名人から市井の人まで、さまざまな人物を撮影してきた。

「やっぱり、ぼくは人を撮ることが好きなんですよ。職種に関係なく、『この人を撮ってみたいな』という人を、ずっと撮り続けてきた。そういう人と出会えるのは、雑誌の仕事を続けてきたおかげ。幸せなことです」

「オレンジページ」の撮影をきっかけに30年あまり撮り続けている農家や牧場の人もいる。

「人の人生が垣間見えるような写真は20歳そこそこでは撮れません。酸いも甘いもかみ分ける、ようやくそういう写真を撮れる年齢になったと思うんです」

タカオカさんは体が動くかぎり、写真を通じてその人たちとの交流を続けたいという。

「お互いの今を確かめ合うっていったら大げさですけど、そういうことをやっていきたいんです」

アサヒカメラ・米倉昭仁)

【MEMO】タカオカ邦彦写真展「大地とともに」
JCIIフォトサロン(東京・半蔵門) 4月2日~4月29日

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