当初はバスのEV化から始めたが、09年から12年間でEV乗用車販売に1500億元(今のレートでは3兆円)の補助金を出した。その結果、生産は急拡大し、15年には新エネ車の生産が34万台、販売は33万台で米を抜き世界1位の新エネ車大国となった。

 その過程でEVのサプライチェーンも発達した。特に車載用電池でCATL、BYD(当初は電池メーカーだった)などが世界プレイヤーとなり、工場で使うロボット、自動車用モーター、車載用半導体、金属工業なども急速に発展した。

 一方、深刻なマイナス面も露呈した。最たるものが、EVが販売されていないのに販売したとして補助金を受け取る詐欺の横行だ。その過程で、まともなEVではないのにEVであることを装った不良EV(4人乗り原付と揶揄された)が大量に生産され廃棄された。それにより、技術の発展を妨げたと専門家は分析している。

 また、この間、輸出実績はゼロだった。そもそも、中国人でさえ中国製EVを信用していなかった。

 こうした問題を打開するために、16年に中国政府は政策の大転換を行った。

 まず、補助金交付の条件を厳格化し、航続距離、電池のエネルギー密度など質的に高い基準を設定した。これにより、技術力のない多くのEVメーカーが倒産した。第2に、補助金の段階的廃止を宣言した。メーカーは補助金なしで利益を出せる体制を目指すことになった。第3に、充電ステーション整備を進めた。充電器は15年に5.8万基、20年168.1万基、23年859.6万基と信じられないような伸びを示している。日本では、まだ約3万基しかない。

 そして、何より大きな影響を与えたのが、テスラ工場の誘致だ。

 テスラ車の輸入は13年から始まり、一台30万元だったが、これを国内生産にすれば23万元にできるということだった。テスラを誘致すれば、中国メーカーは全滅だという反対論が強かったが、政府は強行した。大変な賭けである。

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中国がテスラを誘致した最大の理由は「ナマズ効果」