中国がテスラから技術を盗もうとしたと思うかもしれないが、テスラもそんなバカではない。テスラはそれまで認められていなかった外資100%出資の進出を中国に認めさせ経営の自由を確保した。テスラが中国を選んだのは、EV部品などのサプライチェーンが既に存在していたことが大きい。
さらに、工場建設の速度が非常に速いことも理由の一つだった。18年10月に投資協定に調印してから1年少しの20年1月7日には第1号テスラ車の納車式が行われた。イーロン・マスク氏が狂喜して踊る姿がSNS上で話題になったほどだ。
一方、中国側がそこまでしてテスラを誘致した最大の理由は「ナマズ効果」である。
中国では生簀の中で元気を失った魚の群れにナマズを放り込むと捕食されるのを恐れて元気が蘇るという言い伝えがあるらしい。国内EV産業にテスラという強敵を送り込み、国産メーカーを存立危機に陥らせる。これにより覚醒して競争力が増すという戦略である。これが見事に当たった。
テスラ誘致の結果、世界一高度なEVサプライチェーンが完成した。世界一の電池メーカーとなったCATLがその代表格である。また、テスラフィーバーがEVへの消費者の見方を激変させた。しかも、テスラ車が中国部品により中国人の手で作られたということを知った消費者は、中国製EV全体を信頼するようになった。
中国メーカーはテスラと競うためにデザイン性を一気に高めた。ソフトウェアで競争するビジネスモデルも浸透している。今や、航続距離が何キロかというのは競争のほんの一部となり、その車のコンセプトや、走る以外に何ができるかが勝負の中心となっている。
国産メーカーの競争力は飛躍的に向上し、昨年第4四半期には、BYDがEV販売台数でテスラを抜くところまで来ている。部品国産化率も向上し、テスラでも95%となった。
新車販売に占める新エネ車のシェアは、23年には31%まで上昇した。27年までに45%という目標が発表されたが、早まる可能性が高い。