人類の終着点

 ――多くの日本人にとって、ロシアがウクライナに侵攻したことは警鐘になりました。ロシアの侵攻を新たな時代の先駆けとすると、これからの時代はどのように特徴づけられるでしょう。たとえば、歴史家のエリック・ホブズボームは、1914年から1991年までの期間を「短い20世紀」と呼んでいます。長いにせよ短いにせよ、21世紀はどのような世紀と言えるでしょうか。

 この問いに答えるのは、大変難しいです。なぜなら、われわれの未来は、結果を見ることができない、多くの事象に左右されているからです。

 たとえば、トランプが2024年に再選されれば、米国の力の末期的衰退となるでしょう。また、その結果として、世界も違ったように見えてくるでしょう。

 あるいは、ウクライナがロシアの侵攻に持ちこたえて、どうにか打ち勝って、立場を逆転させることができれば、欧州の物事の方向性は大きく変わるでしょう。それは、軍事力を行使しようとする、他の国々が踏みとどまるための良い教訓になります。

 もしウクライナが敗北すれば、その逆の効果があります。つけあがる国もあるでしょう。

 こうした短期的な事象の結果を、われわれはまだ把握できていません。ですから、長期的な予測を立てるのは極めて難しいと言えます。

著者プロフィールを見る
フランシス・フクヤマ

フランシス・フクヤマ

フランシス・フクヤマ 政治学者。1952年アメリカ生まれ。1989年に発表した論文「歴史の終わり?」で、西側諸国の自由民主主義が、人間のイデオロギー的進化の終着点なのではないかとの見方を示した。主な著書に『歴史の終わり』(三笠書房)、『IDENTITY(アイデンティティ)』(朝日新聞出版)、『リベラリズムへの不満』(新潮社)、『政治の起源』(講談社)など。

フランシス・フクヤマの記事一覧はこちら
暮らしとモノ班 for promotion
「更年期退職」が社会問題に。快適に過ごすためのフェムテックグッズ