とはいえ薬物療法の効果や副作用は個人差が大きいので、やってみなければわからない。まずは治療を始めてみて、効果と副作用のバランス次第で続行か中止かを考えるのも一つの方法だ。市川医師はこう続ける。
「積極的な治療を受けずにつらい症状が出てきたら緩和ケアでやわらげていく選択もある。どんな選択をしても、できるだけ今まで通りの生活をしていけるようにサポートしていきます」
先延ばしにせず、やりたいことを楽しむ
一方、がん看護専門看護師の熊谷靖代さんは、治療を検討する前に頭と心をクールダウンすることを勧めている。
「ほとんどの人は転移を告げられたショックでしばらくは混乱し、回復にもそれなりの時間がかかるものです。そんなときはがんの相談窓口などで話をしてみてください。言葉にすることでおのずと頭の中が整理され、落ち着いて主治医に向き合うことができると思います」
がんの転移を経験した人を取材する中で、「根治の希望を失いたくない」という声が多かった。熊谷さんはこう話す。
「一口にがんと言っても部位やタイプによっては薬によく反応して劇的に良くなる方もいますから、根治を諦める必要はないと思います。ただ『治療を終えてから』という考え方はしないほうがいい。先が見えないからこそ『治療と並行して日々の生活も大切にしよう』『やりたいことを先延ばしにしないでどんどん楽しもう』と考えたほうが、楽に過ごせるのではないでしょうか」
【Q&A】患者からよく相談されること
Q:転移がわかったらやっておくべきことはありますか?
A:先々、緩和ケアが必要になったときのために、かかりたい近所の病院や、在宅の医師を探しておきましょう。自分と相性の良い医師を見つけておくと、安心できます。医師は異動することもあるので、定期的にアップデートをすることも大事です。何気なく生活していると自転車で動ける範囲のことが意外とわからないもの。元気に動ける時でないと、なかなか情報を集めることもできません。住まいを管轄する地域包括センターや支援制度なども調べておくといいでしょう。(熊谷さん)