がんが「転移」するということは、ある臓器にできたがんから、がん細胞が血流に乗って移動し、別の臓器や骨などにがんができるということだ。病期でいうと「ステージ4」に該当する。通常は、根治を目的とした治療ができなくなり、医師からは「薬物療法(抗がん剤)」をすすめられることになる。本記事は、週刊朝日ムック『手術数でわかるいい病院2024』の特集「ステージ4 抗がん剤はやりたくない」を、前編・後編に分けてお届けする。後編では、治療をどのように選べばいいか、治療をする・しないの選択、また患者からよく寄せられる疑問に、専門家が答える。
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治療する・しない、治療法をどう選ぶか
治療をどのように選べばいいのだろうか。外科医の経験も長い、昭和大学藤が丘病院・腫瘍内科教授の市川度医師はこう話す。
「まず、手術などの根治的な治療は本当にできないのか、主治医に確認してみましょう。医師によって判断が分かれることもあるので、セカンドオピニオンを利用してもいいでしょう」
根治的な治療ができない場合、積極的な治療はほぼ薬物療法のみになる。薬物療法を受けるか否か迷ったり、家族で意見が分かれたりするケースは少なくない。主治医に薬物療法の話をされると、「治療を受けなければいけない」と思い込んでしまう人も多いという。市川医師は「これからどう生きたいかを考えてみてほしい」と助言する。
「少しでも長生きしたい、やり遂げたいことがある、家族との時間を大切にしたいなど、希望する生き方は人それぞれ違います。できるだけその希望に近づける治療を一緒に考えるようにしています」
たとえば、1年先の子どもの入学式に出席することを希望しているなら、抗がん剤でがんの勢いを抑える必要がある。一方、「抗がん剤は嫌。痛みだけ取ってほしい」という人もいるし、家族が嫌がる場合も多い。市川医師は言う。
「薬物療法を嫌がる人の多くは、『かつて身内が抗がん剤の激しい副作用に苦しんだ経験がある』とか、『洗面器を抱えて一日中吐きっぱなし』といった『昔の抗がん剤の悪いイメージ』を引きずっています。しかしこの20年ほどで薬物療法は大きく進歩し、今は吐き続けるなんてことはなくなりました。いい状態で長く生きることが可能になり、私たちも患者さんを『生活者』として見ています。抗がん剤に対する思い込みを捨て、『現在の薬物療法』を正しく理解した上で、治療を検討することが大事です」