また、川村孝医師は、「ギリギリの人数で業務をおこなっている企業では、心の病気による休職者や退職者が出ると、その分の業務が周囲のほかの従業員にのしかかり、さらにその人が心の不調を引き起こすという悪循環になっています。メンタルへルスの問題は企業の経営問題なのです」と言います。

 企業が提供すべきメンタルへルスケアには、①ラインケア(上司あるいは人事担当者による管理)、②社内産業保健スタッフ(産業医、保健師、カウンセラーなど)によるケア、③社外機関(医療機関や従業員支援機関・EAP)によるケアがあります。このうち①の上司によるラインケアは最も重要です。

 川村医師によれば、「管理職はラインケアとして、部下の不調を積極的に拾い出すこと」に努める必要があります。

「様子がおかしいと感じたら、管理職は『体調が悪そうだけど、大丈夫か?』といった具合に声をかけてあげてください。ただ、不調があっても『大丈夫です』と答える部下も多いので、額面通りに受け止めてはいけません。部下に声をかけると同時に産業医にも相談してください。先延ばしにするのはよくありません。心の不調は数日のうちに急激に悪化することもあります。管理職が不調の悪化に気づいていたにもかかわらず、十分な措置が取られなかったために従業員が自殺したケースは複数、報告されています」

 産業医とは医学に関する専門的な立場から、職場で労働者の健康管理などをおこなう医師のこと。医師免許とは別に、産業医の資格を持っています。常時50人以上の労働者がいる事業場に配置される義務があり、1000人以上(有害業務がある場合は500人以上)の事業場では専属の産業医を置くことが定められています。

「産業医は普段から職場の巡視や健診、社員の健康相談などに関わっていて、会社の業務内容もよく知っています。心の病気に詳しい産業医であれば、発達障害傾向があるなどの部下とうまくやっていく方法も教えてくれます。産業医は管理職から連絡が入ると、その情報に基づいて本人と面談をします。病気と判断すれば精神科や心療内科などへの受診をすすめ、業務の負荷を軽減したほうがいいと判断した場合には、上司や人事部門に連絡して業務量の削減や配置転換などの対策を提案します。このように職場のメンタルへルス対策は、『上司-人事-産業医』の三つどもえで取り組むことが効果的です」(川村医師)

次のページ
管理職の部下に対する態度にも注意が必要