まひろが仕事をしていたのは、絵師(三遊亭小遊三)が営む代筆屋。楽しそうなまひろだが、父に働くことを禁じられてしまう(写真:NHK提供)

 2024年の大河ドラマの主人公は、『源氏物語』を書いた紫式部。幕末や戦国時代を描くことの多い大河では珍しく、視聴率も苦戦中という。だからこそ、女子の出番。朝ドラスピリッツで応援だ!という話です。AERA2024年2月26日号より。

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 いろいろなことが苦手だが、歴史は特に苦手だ。四十七士は大石内蔵助で、新選組は近藤勇。それくらいをうっすら知っている感じの人生を送ってきたから、「大河ドラマ」とも縁遠い。全話制覇したのは「いだてん〜東京オリムピック噺〜」(2019年)だけだ。そんな私が「光る君へ」について書く。図々しい。が、思ったのだ。これは女子が引き受けるべき大河でしょう、と。

 見始めたのは、贔屓にしている俳優・柄本佑が藤原道長役だと聞いたからだ。見て驚いたのが、「朝ドラ成分」が多かったことだ。私は「朝ドラ」を偏愛していて、『朝ドラには働く女子の本音が詰まってる』という本まで出してしまった。女子の何者かになろうとあがく姿が自分と重なり、心引かれるのだ。

「光る君へ」のヒロインは、後の紫式部・まひろ(吉高由里子)だ。平安時代を生きる下級貴族の娘だが、その視線は今どきで「わかる、わかる」と朝ドラを見ているような気分になる。そこから「引き受けるべき」とまで思うに至ったのは、視聴率が芳しくないと聞いたからだ。

イラスト/小迎裕美子(AERA 2月26日号から)

女子がひと肌脱ぐしか

 初回の平均世帯視聴率が関東地区で12.7%、関西地区で10.1%(ビデオリサーチ調べ)。関東地区は89年放送の「春日局」の14.3%を下回り、過去最低と報道されていた。

 うーむ、これ、わかるかも。そう思った。素人の分析で恐縮だが、大河ドラマを支えているのは「御意っ」とか「合戦じゃー」とか、そういう台詞に萌える男性たちだろう。ところが「光る君へ」は貴族社会、しかも「源氏物語」だ。ラブ成分多めが予想され、敬遠した男性たちが少なからずいたと思う。

 もちろんそんなことは制作陣だってとっくに計算に入れているわけで、道長の父で右大臣の藤原兼家(段田安則)などは「歩く権謀術数」とでも名づけたい人物だ。安倍晴明(ユースケ・サンタマリア)も陰陽師というよりは「陰気な政商」といった趣で、彼らが平安京をうごめき、権力の陣取り合戦を進めていくであろうことはよくわかる。

 が、朝ドラ好きの贔屓目(?)かもしれないが、そういう「従来型大河成分」よりも「朝ドラ成分」、すなわち「女子心わかるわかる成分」が目立つ。であればここはもう、女子がひと肌脱ぐしかないではないか。私の中の義侠心が、心でそう叫んだ。

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矢部万紀子

矢部万紀子

矢部万紀子(やべまきこ)/1961年三重県生まれ/横浜育ち。コラムニスト。1983年朝日新聞社に入社、宇都宮支局、学芸部を経て「AERA」、経済部、「週刊朝日」に所属。週刊朝日で担当した松本人志著『遺書』『松本』がミリオンセラーに。「AERA」編集長代理、書籍編集部長をつとめ、2011年退社。同年シニア女性誌「いきいき(現「ハルメク」)」編集長に。2017年に(株)ハルメクを退社、フリーに。著書に『朝ドラには働く女子の本音が詰まってる』『美智子さまという奇跡』『雅子さまの笑顔』。

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