子どもの投票

 そもそも、アメリカ人は──およそ半数のアメリカ人は──、どうしてトランプを支持するのだろうか。トランプ支持は、これまでの大統領(候補者)への支持とは、非常に性格を異にする。このことを示唆するデータを紹介しよう。

 アメリカの教育系の出版社Scholasticは、1940年以来、大統領選挙の年にはいつも、選挙権をもたない学童たちに模擬投票をさせてきた。幼稚園児から高校生までの選挙権をもたない子どもたちが、この投票に参加することができる。これは教育を目的とした模擬選挙で、結果は、実際の大統領選挙よりも前に発表されてきた。この子どもたちの投票の結果と実際の大統領選の結果とは、きわめて一致率が高い。子どもたちから多数の支持を得た候補者が、実際の選挙でもたいてい勝つのだ。得票率まで実際の選挙結果とほぼ一致している場合が多い (*注1)。

 Scholastic社によると、今まで、子どもの投票が実際の選挙結果と一致しなかったケースは3回しかない。そのうちの1回は、2016年の選挙である。子どもたちからの支持は、ヒラリーの方が圧倒的に大きかった(よく知られているように、大統領選挙前の世論調査でも、ヒラリーは勝っていた *注2)。2020年は、どうだったのか。2020年のケースでは、子どもの投票でもバイデンが勝っていたので、一応、実際の選挙結果と合致していた、ということにはなる。

 しかし、よく数字を見ると、子どもの投票が、大人のほんとうの選挙を予言していたとは言い難いことがわかる。子どもの投票では、バイデンの得票率は60%を超えている(トランプの得票率は、30%台だということになる)。もし実際の選挙で、これだけ得票できたら、バイデンの地滑り的な大勝利になっていたはずである。しかし、実際の選挙では、バイデンの得票率は51.3%、トランプの得票率は46.8%と僅差である。つまり、子どもの投票と実際の選挙の間には、10ポイント以上の違いがある。先にも述べたように、子どもの投票と大人の実際の選挙では、得票率まで近いのが普通なので──たとえば2012年の大統領選挙でオバマが獲得した得票率は51%で、子どもの投票での得票率とまったく等しい──、勝敗だけは実際の選挙と同じだったとはいえ、2020年の数値は、子どもの投票が実際の選挙結果を予言したとは見なしがたい水準である。

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