どうして、トランプが絡む選挙では、子どもの投票の結果と大人による選挙の結果との間に大きな乖離が生ずるのか。正解を得るためには、逆の問いに先に答えた方がよい。どうして、たいてい、子どもの投票と大人の実際の選挙の結果の間に、きわめて高い一致度があるのか。考えてみると、たいていの子どもは、大統領候補者の政策や公約を正しく理解し、評価しているわけではない。中学生くらいになれば、ある程度は、自分で判断できるようになるだろう。しかし、幼稚園児や小学生も投票しているのである。それなのに、大人と一致するのはどうしてか。

 理由は簡単である。幼い子どもの投票は、両親の判断や評価をそのまま反映しているだけだからだ。日頃、お父さんやお母さんがどちらをけなし、どちらを褒めているのか。子どもはそれを繰り返し聴くことで、「トランプは悪い人」「バイデンはいい人」等と思うようになっただけだ。だから、子どもの投票の結果が、大人の選挙の結果と合致するのは当然である。子どもの投票は、彼らの家庭で誰が支持されているのか、誰が不興を買っているのかを知る手がかりになる。

 そうだとすると、どうしてトランプ関連の選挙だけは、子どもの投票が大人の実際の選挙の結果を正確に反映しないのだろうか。それは、大人が子どもたちの前では、トランプをあまり褒めてはいない──むしろバイデンを支持しているかのようなことを言っている──ということを意味している。子どもの前でそういう態度をとっている大人の中の少なからぬ数が、しかし、実際には、トランプに票を投じているのだ。ということは、その大人は、トランプを支持することは、道徳的にはあまり好ましくなく、子どもの教育には悪い、と思っているのである。彼または彼女は、トランプを支持することは、ある意味では、恥ずべきことだと思っているにもかかわらず、実際にはトランプを支持していることになる。

 重要なことは、このような捻れは、トランプ以前の大統領選挙では、(ほとんど)なかった、ということである。どうして、2016年と2020年の選挙では、このような捻れが大量に発生したのか。その理由はどこにあるのか。

※後編「【米大統領選】トランプ再立候補への流れを予言した大澤真幸の提言「アメリカがトランプを選択しない未来」とは?」につづく