バイデンの最大の課題は、真っ二つに分断されているアメリカをひとつにまとめることだが──本人もそのことをよく自覚しているが──、そんなことができるのか。経済学者のロバート・ライシュ──第一期のクリントン政権のときの労働長官──は、核心をついたことを言っている。「バイデンは、どうやってアメリカを癒やすというのか? トランプ〔とその支持者〕が、アメリカが癒やされるのを望んでいないというのに」。敵対者(トランプ)もまた、分裂を異常な病であると認識していなければ、その病を癒やし、アメリカを統一することはできない。

 バイデンが何かをやりたくても、少なくとも、上院と下院の両方で民主党が多数派でなくては、それは難しい。だが、上院で民主党が多数派になりうるか、微妙な情勢である。そして、最高裁は、保守派が多数派であって、それがバイデンの足を引っ張るだろう。

 そもそも、バイデンは、いわゆる穏健派であって、大きな変化をもたらすような大胆なアイデアをもっているわけではない。大きな変化をもたらす意志をもたない、ということこそ、バイデンの「売り」である。バイデンが、はっきりとトランプと異なったことをできるのは、パリ協定からの離脱のキャンセルくらいのものだろう。これは大事に見えるが、ほんとうは大したことではない。アメリカがパリ協定に参加したことで解決に向かうほど、気候変動の問題は簡単ではないからだ。それに、パリ協定に復帰しても、アメリカ人は何か生活が改善されたとか、幸福になったとか、という実感をもつことはないだろう。

 バイデンは、だから、大したことはやらないし、できないだろう。その結果は、しかし、恐ろしい。日本の「民主党」は──非常に悪いことをやったわけではないが──とてもよいことは何もできなかった。そのことが、自民党の圧倒的な勝利を導いた。バイデンが、ごく普通のことしかできなければ、それは、トランプの復活・圧勝という結果をもたらしかねない。バイデンの当面の勝利は、より大きな敗北への最初の一歩だとしたら……。こう考えると恐ろしくなる。

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