※写真はイメージです。本文とは関係ありません(Iuliia Pilipeichenko / iStock / Getty Images Plus)

 2024年11月に実施されるアメリカ大統領選挙。全世界に影響を与える新大統領の座は、バイデン大統領とトランプ前大統領で争われる公算が大きくなってきた。ウクライナ侵攻、ガザ侵攻、そして台湾有事にも大きな影響を与える大統領選の行方はどうなるのか。前回の大統領選直後の2020年12月に、「今回のバイデンの勝利が真の敗北の原因になるとしたら……」という論考を「一冊の本」という月刊誌で発表したのが社会学者の大澤真幸氏。大澤氏の論考は、これまでの流れを見事に予言している。『この世界の問い方──普遍的な正義と資本主義の行方』(朝日新書)に収録された大澤氏のこの論考を、前後編に分けてお届けする。

「民主党政権」の教訓

 正直、私は安堵した。ジョー・バイデンが2020年の選挙に勝って、次期のアメリカ大統領になることが決まったことに、である。アメリカ人はよい方を選択したと思う。

 と同時に、私は不安にもなってきた。とてもいやな予感がする。4年後の大統領選挙で、トランプ(みたいな人)が勝ちそうな気がする。トランプが2024年の大統領選に再び立候補し、共和党の候補者に選ばれ、選挙に勝利するのではないか。そんな予感がするのだ。しかも──ここが肝心なところだ──、4年後のトランプの最大の勝因が、まさに2020年の選挙でバイデンが勝ったことにあるとしたらどうか。バイデンが勝ったことが原因となって、4年後には、トランプが有無を言わせぬ仕方で決定的に勝利する……。(ヘーゲルの言う)「理性の狡智」の格好の実例ともなるような仕方で因果関係が作用しそうである。

 私は十分な根拠があって、こうした逆説を予想している。私たち日本人は、こうした逆説を支持する教訓を得ているはずだ。それを、「民主党政権」の教訓、と呼ぼう。ここでいう「民主党」は、アメリカの民主党ではない。日本の「民主党」である(かぎ括弧でアメリカの民主党と区別しよう)。

 2009年9月に、「民主党」は、日本国民からの圧倒的・熱狂的な支持を得て、自民党から政権を奪った。「民主党」はそれから3年余りの期間、政権の座にあったが、2012年末の衆議院議員総選挙で自民党に完敗し、再び野に下った。そのあと、首相になったのが、自民党のリーダーだった安倍晋三であった。こうして成立した、(二度目の)安倍政権は7年8か月も続いた。ご存じのように、これは戦後最長である。

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