大澤真幸『この世界の問い方──普遍的な正義と資本主義の行方』(朝日新書)
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 というわけで、「民主党」は、それまでの自民党政権と大筋において同じことを続けたのである。しかし、それは許されない。政権交代には、圧倒的な変化が期待されていたからである。こうして、「民主党」は、おおむね普通のことを続けただけなのに、国民から約束を破った裏切り者と見なされた。

 だから、日本人はもう一度、政権の担当者を自民党に戻したのである。「民主党」が失敗したあとの政権は楽である。人々は、もはや大きな変化を期待していないからだ。画期的な変化を期待したこと自体が誤りであった、と思うようになっているからだ。「民主党」を継いだ政権、つまり安倍政権は、国民が「普通こんなものでしょ」と思う程度のことをやり続けられれば、それで十分に高い支持を得ることができたのである。「民主党政権」は目立った変化をもたらすことができなかったことで支持を失い、安倍政権は、「民主党政権」の失敗のおかげで、同じように人々に大した変化を実感させはしなかったが、支持を失わなかったのだ。安倍政権が長く続いた原因はここにある。政権の存続期間は8年近くとたいへん長いので、全期間にこの原因がひとしく利き続けたとは言えないかもしれないが、少なくとも、人々が「民主党政権」のことを生々しく記憶していた最初の3〜4年の間は、「民主党政権」の失敗が、安倍政権がタフだった最大の要因だったと考えられる。

まさに「理性の狡智」のように

 さて、バイデンに戻ろう。日本の「民主党政権」の例は、大きな変化を期待されていた者が、十分に大胆な策をもっていなかった場合、どれほど大きな代償を支払わなくてはならなくなるかを教えてくれる。現在、バイデンに向けられている期待の大きさは、2009年の日本の「民主党」への期待どころではない。それをはるかに上回ることがバイデンに期待されている。

 では、バイデンは何か画期的なことができるのか。トランプ政権がやってきたこと、そのマイナスをすべて解消するようなことをバイデンはできるのだろうか。この点に関して、専門家の意見はおおむね一致している。バイデンが大統領職に就いたからといって、実質的な変化は乏しい、と。大統領がバイデンだからといって、アメリカの経済格差が小さくなるわけではない。米中関係が改善されるわけでもない。

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