「営業をしなくても、『あなたたちだからお願いしたい』と言ってもらえるのはすごく幸せな経営環境だなと思っています。私たちのやり方をクライアントに無理やり押し付けることもなければ、クライアントから何かを無理強いされることも少ない。お金の価値よりも人と人の信頼関係や価値観でつながり、お互いを選んでつながっている。それがビジネスとして成立するのも幸せなことだと思っています」

 さかさま不動産の本質は不動産業ではなく、「よい出会いを作る」ことだと水谷さんは強調する。

「マッチングがうまくいかなくても失敗とは考えていません。諦めずに別のやり方を考えればいい。大事なのは熱量。うまくいくかどうかはやってみないと分からない。まずはやらせてあげたい。よく分からんことをやりたい、と考えている人たちを大事にしたいんです」

 夢の実現を支えるエネルギーはどこから来るのか。水谷さんは一言一言かみしめるようにこう話した。

「やっぱりお金がない時にいろんな人にお世話になりましたから。お金を払えない経験もいっぱいあったし、僕自身も社会に助けてもらったなと思うので。まだまだ自分にできることは限られますが、さかさま不動産はとことん夢を支える存在でありたい」

 夢を支えることは、希望を失わせないことでもある。さかさま不動産のサービスには、広い意味での「社会的ケア」に連なるヒントが隠されている。(編集部・渡辺豪)

AERA 2024年2月12日号

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渡辺豪

渡辺豪

ニュース週刊誌『AERA』記者。毎日新聞、沖縄タイムス記者を経てフリー。著書に『「アメとムチ」の構図~普天間移設の内幕~』(第14回平和・協同ジャーナリスト基金奨励賞)、『波よ鎮まれ~尖閣への視座~』(第13回石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞)など。毎日新聞で「沖縄論壇時評」を連載中(2017年~)。沖縄論考サイトOKIRON/オキロンのコア・エディター。沖縄以外のことも幅広く取材・執筆します。

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