On-Coのメンバー。右端が代表取締役の水谷岳史さん(写真:On-Co提供)

ビジネスモデルは後回し、「とりあえずやってみる」

「ビジネスとして利益を得ているから評価されたのではなく、多くの人が喜び、社会課題も解決できるすぐれたサービスを作ったから評価されたのだと受け止めています。社会課題の解決は必ずしも『ビジネス』が入り口でなくてもいい、ということを認めてもらえたのが一番うれしいです」

 カジュアルな服装にひげ面が似合う。異色のベンチャー経営者というよりは町内会の青年リーダーのような親しみやすさが漂う。だが、しゃべり出すと熱がこもり、挑むような口調が印象的だ。昨年1月の日経ソーシャルビジネスコンテストの最終審査のプレゼンで、水谷さんはこんなスピーチをした。

「私たちは『社会課題はビジネスにならなかったから社会課題になった』と思っています。基本スタンスは『とりあえずやってみる』ことです」

 ビジネスコンテストで「ビジネスモデルは後回しでいい」と唱えるのは、主催者にけんかを売るようなもの。だが、審査員に面白がってもらえた。それが自信にもつながった。とはいえ、「株式会社」が運営するマッチングサービスなのに、利用料を徴取しないのはなぜなのか。水谷さんに問うと、「僕たちの原体験から作ったサービスだからです」という答えが返ってきた。

 水谷さんの「原体験」をたどろう。

 家業が造園業で、庭師として植木の剪定からエクステリアデザイン・施工を学び、その流れで建築に興味を持ったという水谷さん。2011年に名古屋駅から徒歩圏内の空き家の古民家をDIYで改装し、シェアハウスの運営を始めた。その後も、仲間たちと空き家を改装したレンタルスタジオや飲食店など古民家運営の事業を拡大していく過程で、あるスタイルが定着していく。

「自分たちで空き家と大家さんを探し、自分たちで改装して、自分たちで運営するスタイルです」(水谷さん)

 不動産会社を介さず、自分たちで空き家や家主を探して直接交渉するのは手間がかかるが、予期せぬ収穫もあった。自分たちで「発掘」した家主とのつながりを通じ、物件情報を公開したくない半面、条件次第で貸したい、と考えている家主が少なくない内実を知ることができた。「うちの空き家も若い人の活動に使ってほしい」と家主から物件を紹介されるケースも出てきた。

 古民家運営は10年近くで8軒に増えた。家賃は全部で15万円ほど。名古屋駅近くの物件も含め1軒あたり1万~2万円という破格の家賃で間借りさせてもらっていた。情報を聞きつけた人から、「自分も空き家で開業したい」「どうすればそんなに安く借りられるのか」といった相談も受けるようになった。

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