丸畑さんの自宅は2階までは浸水しなかった。だが、それはただの結果論で、避難は明らかに必要だった。

 丸畑さんは当時の経験から、「情報を示して、逃げてくれといくら説得しても意味がない」ときっぱりと話す。元吉教授と同様に、ルールで人を動かす必要性を口にする。

「極端な話ですが、逃げなければいけない、逃げないと罰せられるルールを作る。そのくらいのことをしないと、人は動いてくれないのだと痛感しました」(丸畑さん)

 丸畑さんは、当時の様子を頭上につけたカメラで撮影しており、編集してユーチューブに公開した。

大きな反響を呼んだ動画2本

「平成30年7月豪雨 岡山県倉敷市真備町 被災映像①」

「平成30年7月豪雨 岡山県倉敷市真備町 被災映像② 小田川決壊の記録」の2本で、現在も閲覧できる。

 災害時の正常性バイアスを如実にとらえた動画として、豪雨災害の後は大きな反響を呼んだ。だが、あれから5年が経過し、反響は少なくなった。

 丸畑さんは、

「父とのやり取りをそのまま公開しているので、正直、恥ずかしいと思う部分はあります」と話しつつ、こう続けた。

「でも、あれが災害時のリアルなんですよね。動画を見て実態を知っていただけたら。誰もが災害に遭う可能性がありますから、万一の時に備えて、一人でも多くの人の役に立てたらと感じています」

 必死で説得する息子と、危機感ゼロで息子を突き放す父の、埋めがたい温度差。だが、非日常の中で、誰もが父のような心理状態になる可能性があるということ。それが現実なのだ。

(AERA dot.編集部・國府田英之)

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國府田英之

國府田英之

1976年生まれ。全国紙の記者を経て2010年からフリーランスに。週刊誌記者やポータルサイトのニュースデスクなどを転々とする。家族の介護で離職し、しばらく無職で過ごしたのち20年秋からAERAdot.記者に。テーマは「社会」。どんなできごとも社会です。

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