水かさは胸まで

 この時、人間は危険を回避する行動を取ることもあれば、「大丈夫だ」「たいしたことはない」と認識して行動を起こさないこともある。後者が正常性バイアスの状態で、「認知的不協和の不快感を低減させるために、こうした心理になると考えられています」と元吉教授は解説する。

 丸畑さんの家族は、6日の丸畑さんの呼び掛けを相手にせず、避難勧告が出ても大雨特別警報が発令されても、行動に移さなかった。父にいたっては床下浸水するまで、頑として動かなかった。

 元吉教授が強く指摘するのは、「情報だけでは人間は動かない」という現実だ。

 ヒトは太古から、火が近づいてきたり水が押し寄せたりといった、「目の前にある危険」に対しては、逃げる行動を取ってきたと考えられる。だが、目の前にない危険を情報で伝えるようになったのは、ここ数百年ほどのこと。

厳しいルールでもつくらないとダメ

「私なりの解釈ですが、人間は進化の歴史のなかで、情報に対する慣れがまだまだ進んでいないと考えられます。つまり、情報だけの『見えない危険』に対し、逃げようと判断する心の仕組みを持っていないのです。災害避難においては、情報では逃げないということを大前提に置く必要があると考えています」(元吉教授)

 感情に働きかける要素が大きいと人間は行動し、小さいと行動に移さないことを示した実験もあるという。目に見える危険であれば感情が引き起こされるが、情報だけではそうはいかないということだ。

 では、どうすれば行動に移せるのか。元吉教授は、「ルール作り」が重要ではないかと指摘する。

 家庭や地域で、災害時に、どの状況になったら必ず避難するというルールを厳しめに設定しておく。頭で考えて場当たり的に判断するのではなく、ルールにのっとって機械的に行動すれば、正常性バイアスに陥るリスクを排除できる可能性がある。

 その時に備え、訓練しておくことも重要だ。

「非日常の状況ではうまく行動できませんから、体を使って訓練しておくことはとても大切です。(2日に発生した)JAL機と海保の航空機の衝突事故でも、キャビンアテンダントの的確な避難誘導が称賛されましたが、まさに日ごろの訓練のたまものだったと言えます」

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