そんなペトロは、絶対的に君臨していたリーダーというわけではなく、エルサレム教会の初代司教となった義人ヤコブ(「主の兄弟ヤコブ」とも呼ばれ、12使徒の大ヤコブや小ヤコブとは別人)や、異邦人(=ユダヤ教ではない人々)にキリスト教を広めたパウロに対しては配慮して歩み寄っていた様子も「使徒言行録」からは窺えます。
現在、カトリック教会の聖職者は妻帯が禁じられていますが、ゆるされていた時代も長く、ペトロはイエスの弟子となる以前に結婚していたこと(ペトロの姑をイエスが癒す話)が、新約聖書にも記されています。ペトロの娘としてペトロネラも聖人に認定されていますが、ペトロネラは名前が似ているだけでペトロと関係ないとする説もあります。ペトロの妻については、名前さえわからず、ほとんど情報がないのですが、カイサリアの司教エウセビオスが書き遺した初代教会の重要資料「教会史」によれば、妻が逮捕されて処刑されることになった際、ペトロは「わが妻は、これで天国に行ける!」と大喜びしたそうです。ペトロは処刑場に向かう妻に、こう叫んだと言います。
「わが妻よ、処刑されるあいだ、主イエス様のことを片時も忘れてはならんぞ!」