ペトロ自身も殉教を望んでいましたが、皇帝ネロが彼を処刑しようとした際、弟子たちに懇願され、最初はローマを脱出しようとします。ところが、街を出ようとしたところ、イエス・キリストが彼の前から歩いてきました。呆然とする自分の横を通り過ぎる師に、ペトロは「イエス様、どちらへ行かれるのですか?」と問いかけました。

「わたしは、ローマへ行くのだ。もう一度、十字架につけられるために―」

 ペトロが「では、わたしもあなたといっしょに戻り、十字架につけられます」と告げると、イエスはふり向いてやさしくうなずき、ふたたび天に昇って消えました。

 自分が殉教する時期が来たことを確信したペトロはローマに戻って逮捕され、「わが師と同じ方法で殺されるのは不遜である」と語り、上下を逆さまにした十字架に磔にされて殉教しました。ペトロが処刑された場所に墓がつくられ、のちに、その上に建てられたのが、現在のヴァチカン市国のサン・ピエトロ(聖ペトロ)大聖堂です。

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清涼院流水

清涼院流水

清涼院流水(せいりょういん・りゅうすい) 1974年、兵庫県生まれ。作家。英訳者。「The BBB(作家の英語圏進出プロジェクト)」編集長。京都大学在学中、『コズミック』(講談社)で第2回メフィスト賞を受賞。以後、著作多数。TOEICテストで満点を5回獲得。2020年7月20日に受洗し、カトリック信徒となる。近著に『どろどろの聖書』『どろどろのキリスト教』(ともに朝日新書)など。

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