ペトロ自身も殉教を望んでいましたが、皇帝ネロが彼を処刑しようとした際、弟子たちに懇願され、最初はローマを脱出しようとします。ところが、街を出ようとしたところ、イエス・キリストが彼の前から歩いてきました。呆然とする自分の横を通り過ぎる師に、ペトロは「イエス様、どちらへ行かれるのですか?」と問いかけました。
「わたしは、ローマへ行くのだ。もう一度、十字架につけられるために―」
ペトロが「では、わたしもあなたといっしょに戻り、十字架につけられます」と告げると、イエスはふり向いてやさしくうなずき、ふたたび天に昇って消えました。
自分が殉教する時期が来たことを確信したペトロはローマに戻って逮捕され、「わが師と同じ方法で殺されるのは不遜である」と語り、上下を逆さまにした十字架に磔にされて殉教しました。ペトロが処刑された場所に墓がつくられ、のちに、その上に建てられたのが、現在のヴァチカン市国のサン・ピエトロ(聖ペトロ)大聖堂です。