撮影:尾仲浩二

山の手の「タルトンネ」

釜山は平地が少なく、海岸からすぐ山になっていた。日本で「山の手」というと、高級住宅街のイメージがあるが、釜山では逆だった。

繁華街から山に向かって歩き続けると、「ぐちゃぐちゃした迷路みたいな路地がいっぱいあった」。昔ながらの家が密集する「タルトンネ」、直訳すると「月の町」と呼ばれる地区である。こちらはほとんど再開発されず、今も多くのタルトンネが残されているという。

「でも、足が丈夫なうちでないと撮りに行けない。すごくきつい坂道だから。車でも(坂道発進のしやすい)オートマチックでなければ絶対に運転したくないって思うほどです」

ちなみに、釜山の人々にカメラを向けても何も言われなかったという。

「全く普通のかっこうで、ただカメラを持っていただけだから、気にされなかったんじゃないかな。それに、釜山に着いて3日目にキムさんに行きつけの理髪店を紹介してもらい、髪形をコリアンスタイルにしたんです(笑)。だから、見た目には日本人だとはわからなかったと思いますよ」

今年9月、釜山で写真展を開催し、96年に撮影した作品を展示した。

「東京などで写真展を開くのとは全く違う反応でした。釜山の変貌を一番よく知る人たちが見に来てくれた。この建物はどうなったとか、この人はまだこの仕事をしているとか、地元の人ならではの話が聞けました」

撮影:尾仲浩二

中華食堂にロシア語の看板

最初の釜山訪問から30年あまり。今でもこの街を撮り歩くのは楽しいという。

「まだ庶民の街が残っていますから、歩いていて面白い。活気があるしね。大阪でいうと、鶴橋駅周辺やジャンジャン横丁(南陽通商店街)みたいな感じがする」

釜山の人たちも、「ここは日本でいうと、大阪みたいなところ」と思っているらしい。

「言葉も大阪弁のように、釜山弁があって、ソウルとは全然違うんだ、と地元の人が言っていました」

一方、釜山駅の近くには国際都市・釜山を象徴するような中華街やロシアンタウンなどの外国人街がある。

「中華レストランには、赤地に金色のロシア語(キリル文字)の看板が出ていたりして不思議な感じがします。さまざまな国の人が訪れるからだと思いますけれど、よそ者にやさしい街ですね。日本とずっと行き来があった街でもある」

実は、尾仲さんが初めて釜山に行ったころ、筆者も関釜フェリーに乗ってこの街を訪ねた。ソウル行きの列車に乗るため、釜山駅へ向かうと、通りの様子が日本にそっくりなのに驚いた。尾仲さんの作品を見ていると、また釜山を訪れ、じっくりと歩いてみたくなった。

アサヒカメラ・米倉昭仁)

【MEMO】尾仲浩二「10 Days 釜山1996年」
ギャラリーソラリス(大阪・心斎橋) 11月28日~12月10日

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