そもそもドングリを運びこむことの効果についても疑問だという。

クマがドングリ類を必要とするのは2、3カ月程度です。一時的におなかを満たせたとしても、時間がたてば再び人里に下りてくる可能性があります。また、個体数も正確に把握できていない中で適切なドングリの量をどう決めるのか。ドングリを山に運び込んでも何も解決しない。悪い方向にしか行きません」(横山教授)

 また、ドングリを置く場所についても、かつて問題があったようだ。横山教授はドングリが山奥ではなく、林道わきや集落の裏に置かれる事例を見たという。

「クマは頭が良いので、そのようなことをすれば、簡単にエサが手に入る場所だと認識してしまい、恒常的にクマが現れるようになってしまいます。人里に近いところを自分のえさ場と認識したクマはかなり危険。クマの命を守りたい気持ちはわかりますが、殺処分するしか方法がなくなります。クマの数をコントロールしながら、柿などクマの食料になるようなものは残さず収穫するなどしてクマを人里に近づけない取り組みが有効です」

 批判的な見解が多いが、ドングリを運ぶ側の主張はどうか。2004年に7トンものドングリを奥山に運んだ日本森協会の森山まり子名誉会長は、「当時は大成功だった」としたうえでこう語る。

「クマ1頭につき50キロのドングリを置くことで、一週間は人里に近づかないことがわかりました。生態系を壊すという指摘もありますが、うちの研究者と相談をしたところ、クヌギとコナラであれば、江戸時代に摂津から全国に苗木を大量に運んだという歴史的経緯があり、同じ虫も広まっているはずだから問題ないという見解でした」

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もうドングリ運びはしていないが…