撮影/編集部・渡辺豪

「職業スキルが確立する40代は専門脳が発達します。これは、専門知のエリアの思考回路がパターン化し、情報の選択肢が狭くなる状態です。そのまま50代に入ると、使わない脳番地と頻繁に使う脳番地の格差が拡大します。その結果、使っていない脳番地の代謝が悪化して老廃物がたまりやすくなり、そこから劣化が始まります」(加藤医師)

 うつ状態の脳は2週間で形成されるという。それぐらい脳は日々、流動しているのだ。

「これまで使わなかった脳番地を使うと、今までよく使っていた脳番地が衰えるのではなく、今まで使った脳番地と新しく開発した脳番地がつながりやすくなり、脳全体を活性化させる相乗効果を生みます。自分を振り返る余裕のある50代こそ、今まで避けてきた出来事に出会い直すのが、脳を活性化する秘訣(ひけつ)といえます」(同)

 それならば、と筆者が選んだのは「阪神タイガースの応援」だ。

「六甲おろし」の意味も知らず、六甲山を仰ぎ見ながら兵庫で過ごした少年時代。クラスのほぼ全員が阪神ファン、少年野球チームのユニフォームも縦じまという土地で育った。そうした「圧」にあらがうように、仲の良かった級友3人で阪急ブレーブスこども会に入会したのは小学5年生の時。阪神ファンに対する苦手意識はリーグ優勝した1985年、道頓堀に飛び込むファンが相次ぎ、カーネル・サンダース像を放り込む様子を目の当たりにしたことが決定打になった。阪神ファンは「傍若無人ではた迷惑」というイメージが焼き付いてしまった。

意外な世界知ることで

「中止やで。ヤクルトは、やりたいんやろけどな」

 小雨が降り続く神宮球場の左翼席。座席の位置を確認していると、真後ろの席の中年男性が話しかけてきた。マウントを取られた気がしたのは、筆者がスワ友(ヤクルトスワローズのファンクラブ会員)だからだろうか。定番の応援グッズのミニ傘は自宅に置いてきたが、手提げバッグの中にはつば九郎の扇子が入っている。反射的に居心地の悪さを感じ、男性に「売店周辺で雨宿りしますわ」と言ってすぐにその場を離れた。

 いかん、関西人相手だとつい関西弁に戻る癖が出てしまった。気持ちを落ち着かせなければ。あらためて加藤医師から事前に受けていたアドバイスを頭の中で反芻(はんすう)する。

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