脳が働くことで快適に
控えめな阪神ファンなどいない、と思っていた。ガラが悪いイメージもあった。だがそれは自分が生まれ育った土地の、表層だけ取り繕ったりしない、つまり、「ええかっこしない」風土を反映していたような気もする。その時、ふいに子どもの頃の実家の居間での記憶がよみがえった。
午後9時を過ぎると、母親は「どうせまた負けとるんやろ」とつぶやきながら、阪神の試合をゲーム終了まで放送する「サンテレビ」にさりげなくチャンネルを合わせていた。兄も父も川藤(幸三選手)が代打で登場する時分には、テレビの前に集まってきた。両親も兄も阪神ファンを公言しなかったが、阪神のことは常に気になっていたのだ。
この阪神との距離感は筆者にも内在していて、だからこそ、今回もなんだかんだ理由づけして、つい観戦に来てしまったのかもしれない……。
午後6時半、雨天中止が発表された。ほどよい「出会い直し」に満足し、ほっこりした気分で帰路についた。
「マイナスイメージがあるものに対して脳は働かなくなります。でも、それと向き合って少しでも楽しんだり新しいものを発見したりすると、脳は働くようになります。脳が働くということと快適さはイコールなのです」
加藤医師の言葉をかみしめていた。(編集部・渡辺豪)
※AERA 2023年11月6日号