あえて苦手なことをやってみる。そうした「出会い直し」によって、マンネリ化していた中高年の脳が活性化するという。50代記者の体験ルポで浮かんだ事実とは。AERA2023年11月6日号より。
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人にしろ、社風にしろ、「マッチョ」なものが苦手だった。にもかかわらず、9月から本誌の体験ルポの取材を兼ねてジムに通い始めると、意外なほどハマった。筋トレ習慣で心身がリフレッシュされ、仕事も生活も以前より好循環が続いているように感じられる。
これは一体、何が作用しているのか。この謎の解明を求めてたどり着いたのが、脳科学・MRI脳画像診断を専門とする脳内科医で加藤プラチナクリニック院長の加藤俊徳医師(62)だ。
加藤医師は著書『一生頭がよくなり続ける すごい脳の使い方』(サンマーク出版)で、「中高年世代の物忘れや記憶力の低下は、ほとんどの場合、加齢による老化というよりも脳の偏った使い方が原因」と指摘。「“脳のマンネリ化”を避け、これまでとは違う脳の使い方にシフトすることで脳を再成長させられる」と説き、脳を機能で区分した「脳番地」に基づくトレーニング法を提唱している。
50代は脳内の格差拡大
「脳の偏った使い方」も「脳のマンネリ化」も55歳の筆者にはぴったり符合しそうだ。その理由を加藤医師はこう解説する。
「長年、同じ仕事を続けてきたことで蓄積された思考パターンや行動パターンが、脳を含む体のひずみになって現れる、それが50代です。50歳前後は自分の体を振り返る年齢なのです」
肉体労働をしてきた人が腰痛に悩み始めるのも50歳前後。パソコン仕事をしてきた人が目や肩、首の疲れが抜けなくなるのもこの年齢。筆者も昨年、五十肩を経験したばかり。ジムに通う気になったのも、春以降、内臓の調子が悪く、猛暑で食欲も減衰し、これ以上放置するのはまずい、と考えたからだ。だが、脳のメンテナンスまでは考えが及ばなかった。脳は思考や行動を制御する。このため、「苦手なことをする」機会は年をとるほど減り、脳の「マンネリ化」という負のスパイラルに陥りやすくなるという。