AERAで連載中の「この人のこの本」では、いま読んでおくべき一冊を取り上げ、そこに込めた思いや舞台裏を著者にインタビュー。
自称「フードサイコパス」として食を探求し、料理人としても活躍する筆者が店側と客、それぞれの立場から飲食店における様々な出来事を切り取る。シンガポールのホテルの朝食ビュッフェで見た日本人特有の行為とは。「出張」を演出できるキャリーバッグはひとり客の免罪符である──など鋭い観察眼で綴るスパイシーな一冊となった『お客さん物語 飲食店の舞台裏と料理人の本音』。著者である稲田俊輔さんに同書にかける思いを聞いた。
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この夏、セブン−イレブンとのコラボ商品「エリックサウス監修ビリヤニ」を大ヒットさせた人気カレー店「エリックサウス」総料理長の稲田俊輔さん(53)。文筆家としても活躍する才人の新刊は、料理店をとりまく「お客さん」を軽快に料理したエッセーだ。
「順番を抜かされた!」と怒るお客さんにどう対応する? 豪華なサラダバーで飛ばしすぎる女性たちの運命は? 食べログの低評価を飲食店はどう思っているか、など店側からの視点と客としての自身の体験が絶妙な配合で混ぜ合わされ、そのシニカルでスパイスの利いた観察眼に笑いながらのめり込んでしまう。
「自分の店でもよその店でもお客さんの何げない会話が気になって仕方がないんです。シニカル、というよりもニヤニヤしながら観察している感じでしょうか」と稲田さん。
出色は「騙す人々、騙される人々」のエピソード。カフェの隣席で繰り広げられる「マルチの勧誘」に気づいた稲田さんはどうするのか? スリリングな展開は、そのまま舞台劇にできそうだ。
「そうおっしゃっていただいて嬉しいです。あのときはあまりに濃厚なドラマが繰り広げられていて、横にいてドキドキしました。見聞きしたことほぼそのままなのですが、おもしろさを伝えるためには一度自分のフィルターを通さないといけない。脚本を書くようなイメージで書きました」
酒類メーカー勤務から飲食業界へと進んだ自身を「フードサイコパス」と呼ぶ。食へのこだわりは幼少期からだ。