「両親はじめ親族一同が食べることに対して手を抜かない情熱の持ち主だったんです。僕も5歳のころから工作感覚で餃子を作ったり、ポテトサラダとマカロニサラダ、コールスローを全部入れた最強サラダを家族に食べさせたりしていました。逆に社会に出てから『世の中の人たちってこんなに食に対して冷淡なんだ!』と驚いたんです。人と違うこの感覚が武器になり仕事になるかも、と思うようになった」

 和食、ビストロなど様々な飲食店をプロデュースし成功させてきた。そのDNAはスタッフにも自然に浸透し、美味しさだけでなく細部まで行き届いたサービスが客を驚かせることもしばしばだ。

「すごく身も蓋もない言い方をすると、僕らは感謝されたいんです。それにお客さんをびっくりさせたいし褒められたい。そういう欲みたいなものがあるからこそ、飲食店だけでなく、あらゆる仕事は成り立っていくんじゃないかと」

 その思いがすべての働く人の共感を呼ぶ。いっぽうでコロナ禍は飲食業界のシビアさを浮かび上がらせもした。

「究極を言うと本当に好きでやっている人の店が残ればいいし、そうだと信じています。だって飲食店ってやるほうも行くほうも本当に楽しいですから。僕自身も今まで以上にどこに行ってもいいお客さんでいようと思っています(笑)」

(フリーランス記者・中村千晶)

AERA 2023年10月30日号