喜多川歌麿筆「娘日時計・辰ノ刻」/午前8時ころにあたる辰の刻から午後4時ころにあたる申の刻までの間の、若い女性の生活の場面を描いた浮世絵版画のシリーズ。顔を洗う手拭を肩に掛けた娘が、朝顔の小鉢を手に持っている(出典 ColBase https://colbase.nich.go.jp/)
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 放送中の大河ドラマどうする家康」が描くのは徳川家康の生涯。家康の死後も、江戸幕府の治世は250年にわたって続き、庶民の暮らしも次第に成熟していった。

 オンライン予備校で「日本一生徒数の多い社会講師」として活躍する伊藤賀一氏が監修した『テーマ別だから政治も文化もつかめる 江戸時代』(かみゆ歴史編集部編)は、政治・経済のみならず、江戸の人々の生活を多角的に解説。庶民の間で起きたいくつかの「ブーム」にも触れている。

 江戸時代の「ブーム」と言えば、宿場や街道の整備にともなう「旅行ブーム」がよく知られているが、上記の『江戸時代』が掲載する「ガーデニングブーム」についてのコラムも興味深い。引用する形でリポートしたい。

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 江戸時代の人々は、園芸が大好きだった。寛永期の椿、元禄期の躑躅(つつじ)、享保期の菊など、時期によってブームになった花は異なるが、鉢植えの園芸植物は常に人気だった。江戸などの都市部は家屋が密集していたが、鉢植えなら、狭い庭や路地でも楽しめる。そのため、庶民は鉢植えの花を気軽に楽しんだのである。

 ひとたび流行が起きると、珍しい品種が高額で売買されることも多かった。1798(寛政10)年には、幕府が鉢植えの高額売買を禁止したほどだ。都市部では、人気の花の品評会もしばしば行われた。このような江戸時代の園芸ブームのおかげで、現代の私たちも多種多様な花の品種を楽しむことができるのである。

 なかでも特筆されるのが、二度も大ブームが起きた朝顔である。 朝顔は奈良時代に中国から伝わったとされ、当初は薬用として栽培された。しかし、江戸時代には観賞用として広まり、さまざまな品種に改良された。「朝顔につるべ取られてもらい水」の句で知られる加賀千代女(かがのちよじょ)は、18世紀の俳人である。

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「突然変異」を競い合った