ただ、その批判が「空気」になってしまってはいけないと思います。あいつは正しくない、だからあいつを叩くのが正義だ、と思考停止に陥ってはだめなのです。
そもそも、いまはみな「正しさ」をあまりに静的かつ固定的に捉えていると思います。ポリティカル・コレクトネスのなかのコレクトネス(correctness)という言葉はコレクト(correct)という動詞の名詞形ですが、これは本来は動詞的に捉えたほうがよいはずです。コレクトは「校閲する」とか「まちがいを正す」とかを意味する動詞で、まさに本書の主題である「訂正」を意味する言葉です。
つまり、ポリティカル・コレクトネスの「コレクト」というのは、本当は、固定した正しさがあるというわけではなく、正しい方向にむかってつねに「訂正しよう」という動きのことだと思うのです。そういう意味では(英語の語感はよくわかりませんが)、ポリティカル・コレクトネスという名詞形で記すより、むしろポリティカル・コレクティング(政治的訂正行為)と動名詞で記すべきかもしれません。
訂正する力は記憶する力でもある
ポリティカル・コレクトネスとは、「昔の正しさはいまでは正しくない、だから訂正しよう」という反省のことです。