GTECはベネッセコーポレーションの4技能テスト、英検IBA(RL)は簡易的英検で「読む」と「聞く」の2技能。同市の50代の男性教員もこう語る。

「英検IBAやGTECの記録を『取得した』生徒に含めるよう言われています。英検3級以上合格の生徒だけの数なら、他の自治体と大きくは変わらないと思います」

 外部テストの導入による英語力の積み増し。札幌市は英検IBAの導入で「状況調査」の結果が18年度の33.9%から、翌年度41.9%へと大きく改善した。

まず改善すべきは調査

 そもそも文科省が定めた基準は緩く、例えば「思われる」生徒の数は、2技能でも、各教育委員会が目安を決めてもいいとされている。もちろん各教育委員会はいい数字を出そうとし、結果的に年々英語力が上がっているというデータができあがる。

 もう一つの問題が、割合が低い県が名指しで批判されるランキング報道だ。「状況調査」でワースト3だった愛知県は、結果を受けて授業改善を示唆したが、その後の「学力テスト」では、県別でトップ3。どちらの統計を信じればいいのか。

「基本的に都道府県や都市の平均値に、大きな開きが出ることはありません。50ポイント以上差が出る『状況調査』には、やはり問題があります。『学力テスト』はテストを実施している点はいいのですが、出題される問題が毎年違うので年ごとの変化を見ることができません」(寺沢さん)

 寺沢さんによると、英語力を測るのに全数調査は必要ないという。数%の生徒を学校単位で無作為に抽出し、非公開とした「同じテスト」を毎年実施する。匿名化を条件に、授業での英語使用割合などを正直に回答してもらう。こうすることで、問題の難易度に左右されることなく、中学生のリアルな英語力とその変化、そして最適な授業スタイルを知ることができる。

「状況調査」も「学力テスト」も、結果が出るたびに教育委員会や学校現場がやり玉に挙げられ、授業改善を求められる。しかしこれらの調査で、正しい英語力は測れない。まず改善すべきは授業ではなく、文科省が行っている調査そのものだ。(ライター・黒坂真由子)

AERA 2023年10月2日号