食い違う「全国学力テスト」と「英語教育実施状況調査」の結果。「状況調査」は積み増しなどの指摘もある。問題はどこにあるのか?AERA2023年10月2日号より。
【図表】中学英語で習う英単語は倍増、教科書は「ゆとり」時代の1.6~2倍!
* * *
7月末、文部科学省から2023年度「全国学力・学習状況調査」(以下、学力テスト)の結果が公表され、中学生の英語の結果に衝撃が走った。特に「話す」技能の平均正答率は低く、12.4%という数字は広く報道された。しかし、5月に発表された「2022年度英語教育実施状況調査」(以下、状況調査)では、約半数の中学3年生が、「CEFR(セファール) A1(英検3級)レベル相当以上」の英語力があるとされていたはずだ。言語社会学者で、関西学院大学社会学部准教授の寺沢拓敬さんは言う。
「文科省の『状況調査』は、英語力の指標や地域別の英語力ランキングとして使えるようなクオリティーのものではない」
外部テストで積み増し
上の写真の棒グラフの紫色は「英検3級相当以上を取得した生徒の割合」、斜線は「同レベル以上の実力があると思われる生徒の割合」を示している。後者の生徒を判断するのは担当の英語教員だ。[KT1]
東京都の公立中学校で英語科主任を務めた50代の女性教員は、「まともに回答している人なんていないと思いますよ」と言う。調査は忙しい師走に行われる。手元にある英検の結果を見て「取得した」生徒の数をまとめるが、改めて調査する時間はとてもない。「思われる」生徒の数は、成績表で「5」をとっている生徒数にしているという。
さらに問題なのは、教育委員会から現場に「指導が入る」ことだ。例えば「状況調査」で全国平均を大きく超える86.6%を出し英語力“日本一”となったさいたま市。「取得した」生徒の割合も非常に高い。市内の50代の女性教員がこう話す。
「英検3級の子だけを『取得した』生徒として報告すると、教育委員会からGTECと英検IBAの受験者を『思われる』ではなく、『取得した』方に含むよう電話がくる。他校でも複数の先生が同じ電話を受けています」