夏井:ちなみに、子規にとって五月は、〈五月はいやな月なり〉と言うくらい体調を崩してしまう月だったみたい。友人にも〈五月といふ月は君が病気のため厄月ではないか〉と言われててね。子規にとっての五月のしんどさを知ってる読者だったら、五月を乗り切って、六月の爽やかさが染み渡ったんだろう、と読みたくなるよね。
実際にこの句は、日清戦争への従軍の帰途に大喀血して、入院していた神戸病院から須磨保養院に移って詠まれた句なのね。病状も落ちついてきた子規は、感じるままに〈奇麗な風〉と詠んだんだろうね。
奥田:なるほど、しんどい体調の時期を乗り越えた後の〈六月〉だったんだ。最近なら、六月は「ジューン・ブライド」。結婚月のイメージもありますが。
夏井:そうなの。若い世代の人たちにとって六月は、新しい門出を迎える幸せな結婚の月。この句から、ガーデンウェディングを思い浮かべる人もいるはず。幸せそうな新郎新婦や、華やかに装った人々。その中を吹き抜ける風の爽やかさや美しさといったらないよね。まさに〈奇麗〉がぴったり!
この句の〈六月〉は、明治、昭和、平成&令和と、時代によっていろんな解釈が生まれてくるのよね。面白いと思わない?