旅装姿の正岡子規
1891年、千葉・房総を一人旅した正岡子規の記 念写真。笠に〈同行は笠にたのんで二人かな〉の 句が記されている
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 若い世代にも近年広まっている俳句。俳優の奥田瑛二さんも、その魅力にハマった一人。三十年以上、俳句を詠み続けている。そんな奥田さんと夏井いつきさんが『よもだ俳人子規の艶』(朝日新書)で、正岡子規の俳句について対談。奥田さんは季語の話題から、俳句を続ける理由について語った。本書から一部を抜粋、再編集し、紹介する。

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夏井:奥田さんとぜひ語りたい句があってね。実はこの句、「子規の句で一つ」と言われたら、まずこれを選ぶくらい好きな句なんだけど。

 六月を奇麗な風の吹くことよ

奥田:この句、いいですよ。僕も好きだった。

夏井:現代は、〈六月〉っていうと、梅雨をイメージするでしょ。ジメジメと湿気るばかりでうんざりした気分。でも、旧暦の六月ならば、まさに「水無月」の七月になるのね。梅雨が終わって、晴れて爽やかな風が吹く頃になる。梅雨明けの爽快感を思うと、子規が広がりを感じさせる助詞〈を〉を使いたかった気持ちに共感しません?

奥田:〈を〉で、六月という月を通してというイメージが加わってるかな。吹いている風も一瞬の風じゃなくて、吹いてほしい時に吹いてくれてる感じさえする。〈奇麗〉からは、夏の光も見えてくるし。

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時代によっていろんな解釈が生まれてくる