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1890年代の吉原(MeijiShowa/アフロ)

 俳人として大きな功績を残した正岡子規。しかし、そんな子規にも遊郭を舞台にした作品が多々ある。そのエロス漂う「艶俳句」を読んだ俳優・奥田瑛二さんは、ある光景を思い出したという。夏井いつきさんとの対談本『よもだ俳人子規の艶』(朝日新書)から一部を抜粋、再編集し、紹介する。

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*  *  *

奥田:まずはこの句から始めたいです。

 色里や十歩はなれて秋の風

:艶俳句の中でもかなり有名な句だよね。松山の遊郭街のどん突きにある宝厳寺で詠んだ句で、宝厳寺さんの境内にも、この句の句碑が建っている。〈色里〉と始まるわりに、生々しくないよね。

 でも、だからかな。この句の印象が大きいからこそ、私は大きな勘違いをしていて、子規が〈色里〉を詠んでも、外から眺めるくらいだろうとタカをくくっていた。

 ところが、こんな句もあって……。

 女郎買をやめて此頃秋の暮

 シレッと〈秋の暮〉なんて、そんなに〈女郎買〉していたの? と、思わず突っ込んでしまった(笑)。

奥田:大した女性経験などないのだろうと踏んでいたら、実に爆弾的な句ですよね。

 この句で思い出した光景があるんです。僕は昔から自分の誕生日が嫌いで、皆に囲まれるお祝いムードが苦手でね。今はもう時効だから白状しちゃうと、誕生日にあえて吉原に行ったことがあって。

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夏井いつき

夏井いつき

夏井いつき(なつい・いつき) 1957年愛媛県生まれ。俳人。俳句集団「いつき組」組長。8年間の中学校国語教師を経て俳人へ転身。94年「第8回俳壇賞」、2000年「第5回中新田俳句大賞」受賞。創作活動に加え、「句会ライブ」や講演など、俳句の種まき運動の傍ら、MBS「プレバト!!」など各メディアで幅広く活躍。15年より初代俳都松山大使。主な著書に、『句集 伊月集 鶴』『夏井いつきのおウチde俳句』(共に朝日出版社)、『夏井いつきの世界一わかりやすい俳句の授業』(PHP研究所)、『子規365日』(朝日文庫)、『瓢簞から人生』(小学館)など。

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奥田瑛二

奥田瑛二

奥田瑛二(おくだ・えいじ) 1950年愛知県生まれ。俳優・映画監督。79年映画『もっとしなやかにもっとしたたかに』で初主演。86年『海と毒薬』で毎日映画コンクール男優主演賞、89年『千利休 本覺坊遺文』で日本アカデミー主演男優賞を受賞。94年『棒の哀しみ』ではキネマ旬報、ブルーリボン賞など8つの主演男優賞を受賞する。2001年監督デビュー。近年の出演作に、主演映画『洗骨』(19年/照屋年之監督)、連続テレビ小説「らんまん」(23年度前期/ NHK)などがある。主な著書に、『男のダンディズム』(KKロングセラーズ)、『私の死生観』(共著/角川oneテーマ21)など。

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あの侘しさといったらなかった