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1890年代の吉原(MeijiShowa/アフロ)
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 俳人として大きな功績を残した正岡子規。しかし、そんな子規にも遊郭を舞台にした作品が多々ある。そのエロス漂う「艶俳句」を読んだ俳優・奥田瑛二さんは、ある光景を思い出したという。夏井いつきさんとの対談本『よもだ俳人子規の艶』(朝日新書)から一部を抜粋、再編集し、紹介する。

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奥田:まずはこの句から始めたいです。

 色里や十歩はなれて秋の風

:艶俳句の中でもかなり有名な句だよね。松山の遊郭街のどん突きにある宝厳寺で詠んだ句で、宝厳寺さんの境内にも、この句の句碑が建っている。〈色里〉と始まるわりに、生々しくないよね。

 でも、だからかな。この句の印象が大きいからこそ、私は大きな勘違いをしていて、子規が〈色里〉を詠んでも、外から眺めるくらいだろうとタカをくくっていた。

 ところが、こんな句もあって……。

 女郎買をやめて此頃秋の暮

 シレッと〈秋の暮〉なんて、そんなに〈女郎買〉していたの? と、思わず突っ込んでしまった(笑)。

奥田:大した女性経験などないのだろうと踏んでいたら、実に爆弾的な句ですよね。

 この句で思い出した光景があるんです。僕は昔から自分の誕生日が嫌いで、皆に囲まれるお祝いムードが苦手でね。今はもう時効だから白状しちゃうと、誕生日にあえて吉原に行ったことがあって。

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あの侘しさといったらなかった