大門や夜桜深く灯ともれり
吉原へ通うための「猪牙船」が行き来していた「今戸橋」の景が目に見える句も。
牡丹載せて今戸へ帰る小舟かな
次の「局」は、本来は上流階級の女性をいう敬称だけど、局女郎も思わせるよね。時代により品格は異なるようだけど、花魁ほどの高位の遊女ではなく、中から下にあたる遊女たちが局女郎。
一本の菫あらそふ局かな
そして、江戸・東京の吉原以外にも京都の遊里「島原」を詠んだ句も。
島原の一本桜古りにけり
奥田:こう並ぶと、それぞれの花に、遊女の身を重ねて読んでしまいそうだなあ。
夏井:古風な「きぬぎぬ」の句もある。漢字では「衣衣」もしくは、「後朝」と書くんだけど、和歌で詠まれてきた「きぬぎぬ」の歌といえばピンときやすいかな。男女が共寝して過ごした朝を指すだけでなく、その朝の別れのこともいう。
長き夜や誰がきぬきぬの鶏が鳴く
寒さうに皆きぬきぬの顏許り
きぬきぬを朝顏の花に見られけり
奥田:別れがたい男女の情緒がある「きぬぎぬ」の句群。これらはやはり、艶俳句に入れておきたいなあ。
もっとも、中にはこんなユニークな句もあって。
きぬぎぬに蚤の飛び出す蒲団哉
夏井:可笑しいよね。しっとり男女の美しい褥を想像した次の瞬間、蚤がピョーンと飛び出していくのだから。リアルな実体験に違いないと思ってしまう。
奥田:この蚤のリアルさは、絶対通ってただろうなと。
