MVPでも個性を評価
いたるところに散らばった“違い”は、大人をも驚かせる。違うことが当たり前だから、それを受け入れる土壌が広がる。その一つひとつが凝り固まった価値観を打ち砕き、子どもたちの成長を後押しする。
「自分のことだけでなく、他の子のことを考えるようになりました」
そう話すのは、この日の練習に参加していた翔英くん(7)の父・松下円(まどか)さん(46)だ。4歳の頃にクラブに入会し、今年で4年目。フィールドに入るのを怖がる仲間がいると、翔英くんはすかさず、
「Let’s play together!」
と声をかけにいく。コーチの指示がわからず戸惑う友達にも積極的に話しかける。勝利に向かってただトライを狙うのではなく、コミュニケーションを大事にする。そんなスポーツマンシップが評価され、学年で1人だけ選ばれるMVPに選出されたことも。円さんは言う。
「誰々がトライを多く決めたとか、足が速いとかを比較せず、それぞれの良さや個性を評価するカルチャーがこのクラブにはあります」
スポーツの世界には、常に勝ち負けがつきまとう。もちろん、勝ちへのこだわりが子どもたちを成長させる側面もある。それでも、SIRCでは短期的な勝利は追いかけない。
そのベースに根付くのは、「エンジョイ・ラグビー」の考え方だ。徳増さんはこう話す。
「楽しむのではなく全力を出し切ること。自分の好きなことに夢中になること。それが、私の考えるエンジョイ・ラグビーです」