人工超知能により人間が多くの仕事を奪われ、それに勝る人間の仕事を新たに創出できなければ、無条件に最低限の所得の支給を行う「ベーシックインカム」を導入する必要性が生じる。労働から解放されることを恩恵と捉える声もあるが、それに伴い、就労意識の低下や、仕事を通じて能力開発するモチベーションの減退、向学心がなくなることによる知識や技術の衰退などが懸念される。知能と労働の主導権を獲得した人工知能に対し、能力を磨くことに注ぐエネルギーが減退した人間で構成される世界の果てには、退化した人類がいる。
少なくとも現時点でのわれわれの努力の源には、社会に役立つ存在になりたい、有能な存在として社会に認められたいといったことがあるのではないだろうか。人工知能の超知能化によって、こうした欲求を満たす余地や、努力を反映させる先がなくなれば、人間は抜け殻のようになってしまう。そうなれば、人間の学力・知力は低下し、人工知能をコントロールする技術を継承する存在もいなくなり、ますます統御できなくなる。一度でもそのような状況を作ってしまうと、衰退は負の連鎖を生み、歯止めが利かなくなる。
《『人類滅亡2つのシナリオ AIと遺伝子操作が悪用された未来』(朝日新書)では、制度設計の不備が招く「想定しうる最悪な末路」と、その回避策を詳述している》