食物アレルギーを起こしやすい食物のうち、食品表示が義務化されているものを特定原材料といい、今回義務化されたクルミを入れて8品目、特定原材料に準ずるものとして表示が推奨されているものは20品目あります。


「消費者庁は食物アレルギーに関する調査を3年ごとにおこなっていますが、過去2回の調査でクルミによるアレルギーが急激に増えました。そのため、これは一過性ではないと判断されて表示が義務化されました」


 このように、昭和大学病院小児科教授の今井孝成医師は言います。今井医師は小児科全般、特に小児のアレルギー疾患について長年診療に携わり、日本アレルギー学会や日本小児アレルギー学会の理事として若い医師たちの指導や、教育関係者・保護者などへのアナフィラキシーに関する啓発活動などを精力的におこなっています。

ナッツ類が身近になり、肌からの侵入が進んでアレルギーに


 なぜ、この数年でクルミのアレルギーが急増したのか。その理由はまだわかっていませんが、昔に比べてクルミなどのナッツ類の消費が増え、ごく身近に存在するようになったことが一つの要因と考えられています。


「以前、食物アレルギーになってしまう原因は、赤ちゃんが早期からアレルギーを起こしやすい食物を食べることだと思われていました。しかし近年では、アレルギーの原因物質(アレルゲン)が皮膚から侵入することで発症を促すとされています。ナッツ類の消費量が増え、赤ちゃんのころから家の中など身近に触れる機会が増えることで皮膚からナッツ類が侵入し、食べる前からアレルギーを起こす力を身につけてしまうと考えられているのです」(今井医師)


 木の実類の中でも特にクルミのアレルギーが多いのは、クルミのたんぱく質の持つ抗原性(アレルギーの起こしやすさ)が高いことによると考えられています。

表示のない中食・外食には注意が必要


「クルミのアレルギーは、クルミそのものを食べなければ良い、という単純なものではありません。今は、ケーキなどのお菓子、レストランで食べる料理のソースやドレッシングなどにも頻繁に使われていて、知らずに食べてしまうことも多いのです。表示が義務化されたのは個別包装されたものだけで、総菜など中食や、レストランなどでの外食では決まったルールがなく、また作る側もアレルギーに関してはあまり意識していないことが多いので、完全に避けるのはなかなか難しいですね」

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完全に避ける手段はないのが実情