一方、近代社会になって職業選択の自由化が生じるわけですが、これは自分で仕事を見つけないと仕事がないという社会です。つまり、生活をするためには自分で仕事を見つけなければならない社会になったのです。

 前近代社会の結婚は、イエとイエの結びつきであり、あくまでもイエのためのものでした。農家や商店など、いわゆる家業が経済基盤である社会では、「後継ぎ」によってその基盤を次の世代に受け渡さなければなりません。だから結婚が必須だったわけです。要するに前近代社会では、イエの農地やイエの店舗が生活を保証するものだったということです。

 近代社会では、そうした伝統的家業が衰退して企業社会が一般化し、多くの人が「被雇用者」として働きます。それは、「職業選択の自由」が生まれたということなのですが、要は、親の仕事を継ぐ必要がなくなる代わりに、自分で仕事を見つけなければならなくなったということです。それはつまり、近代社会は「生活が自動的に保証されない社会」であるということを示しているわけです。

近代的結婚の「心理的」特徴

 次に確認したいのは、心理的な面です。

 心理面で言えば、「近代は、アイデンティティを自動的に保証しない社会である」、ということです。

 前近代社会には、生涯にわたって自分の「居場所」がありました。あったというより、縛られていたと表現したほうがいいかもしれません。居場所がある前近代社会では、自分が何者であるかという問いは意味がなく、自分の友人や知人が比較的自然に与えられます。

 それが近代になると、「人生の意味」を自分で見つけなければいけない社会になります。人間関係的に言えば、自分を承認してくれる相手を独自の力で見つけなければいけなくなり、孤立するリスクも引き受けなければいけない社会になったのです。

 こうした生活上の不安や心理的な不安、人間関係の不安を解決する手段として、「近代家族」というものが出現したわけです。

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