アメリカのコロラド州で行われた研究では、約550組のふたごのほかに800組近いきょうだいや片方の親だけが同じきょうだいのような血縁者約1000組のデータを合わせて、たばこを吸い始めたかどうかへの遺伝の影響を調べました。すると案の定、何らかの宗教の活動(たとえば聖書を読む会に出席するなど)に参加する程度によって、遺伝と環境の割合が異なってくることがわかりました。宗教に参加する程度が多いほど遺伝によるばらつきは小さくなり、代わって共有環境と非共有環境により大きくなるというものでした。

 これはそもそもその人がどのくらい宗教行事にかかわるかを指標として見ていますので、単に環境の問題だけでなく、その人自身の宗教にかかわろうという心理的な傾向もかかわっているともいえます。

安藤 寿康 あんどう・じゅこう

 1958年東京都生まれ。慶應義塾大学文学部卒業後、同大学大学院社会学研究科博士課程単位取得退学。慶應義塾大学名誉教授。教育学博士。専門は行動遺伝学、教育心理学、進化教育学。日本における双生児法による研究の第一人者。この方法により、遺伝と環境が認知能力やパーソナリティ、学業成績などに及ぼす影響について研究を続けている。『遺伝子の不都合な真実─すべての能力は遺伝である』(ちくま新書)、『日本人の9割が知らない遺伝の真実』『生まれが9割の世界をどう生きるか─遺伝と環境による不平等な現実を生き抜く処方箋』(いずれもSB新書)、『心はどのように遺伝するか─双生児が語る新しい遺伝観』(講談社ブルーバックス)、『なぜヒトは学ぶのか─教育を生物学的に考える』(講談社現代新書)、『教育の起源を探る─進化と文化の視点から』(ちとせプレス)など多数の著書がある。

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