すると、翌日、頭の付近に来たボールをストライクと判定されたんです。こういうことを言うのは好きではありませんが、明らかに判官びいきの判定でした。ぼくも頭に血がのぼりそうになりましたが、国際大会では色んなことが起きます。これも仕方がないと思って冷静に振る舞おうとしたときでした。

 松井がバットをポーンと放り投げました。判定への不服を、態度で表してしまったのです。これはいかん。チームのためにも、松井の将来のためにも、きちんとしなければいけない。

「我々は日本を代表して国際試合に来ている。マナーが大切やぞ」

「スポーツマンシップとはなにか。フェアプレーとはなにか。知・徳・体を身につけなければあかんぞ」

「長嶋さんや王さんはなぜ応援されるのか。大事なのは人間性やな」

 移動のバスの中で約2時間、チーム全員に向けて、こんこんと話をしました。

 最後の夏、松井は5打席連続敬遠されても、冷静にプレーを続けました。試合に敗れてベンチ前で道具を片付けていたら、エースの山口哲治と一緒にぼくのところに来て、「監督さん、(日本一になる)約束を守れず、すみませんでした」と言ってきました。

 こういう時に、こんなことが言える。すごい男になったと感激したのをよく覚えています。

次のページ 象のようにごつごつした手