学校の多忙化の解決には国の政策見直しや予算化を
5時間目が終わると、担任の小林さんは教室に戻って「帰りの会」をスタート。数人の児童が発表を終え、すぐに下校時の恒例「先生とじゃんけん」が始まった。担任に勝った児童から順に帰ることができる。子どもたちは雄たけびをあげたり、ガッツポーズをしたりして、次々に階段を駆け下り、昇降口から飛び出していった。
校門前で児童たちの下校を見届けた小林さんは再び職員室に向かい、翌日の外国語の授業内容の打ち合わせを始めた。翌日の準備が終わり、学校を出たのは5時過ぎだった。
教育政策が専門の東京学芸大学の大森直樹教授は、「週3日5時間授業」は成功事例であると同時に、教育現場の根源的な問題を示唆している、と語る。
「教職員の勤務負担だけでなく児童生徒の学習負担にも配慮した点で、守谷市の取り組みはすばらしいと思います。ただし、大切な休養期間である夏休みを短縮していることは、少し心配です」
大森さんによると、学校の休暇期間には、長年にわたる学校現場の知見に基づいた合理性があるという。それを分かっていながらも夏休みを短縮しなければならなかった背景には授業時間数の問題がある、と指摘。日本には国が定めた「標準授業時数」に基づき、各学校が時間割を組むという仕組みがある。小学校高学年では外国語の活動や教科化により、02年に945時間だった年間の授業時数は、11年に980時間、20年に1015時間に。現在は20年前と比べて70時間増えている。
「学校の多忙化の抜本的な解決には国が標準授業時数を見直すしかありません」(大森さん)
教育行政学が専門の明星大学の樋口修資名誉教授は、「教育委員会主導で現場と連携し、さまざまに工夫を凝らして教員の負担を軽減させる施策は画期的で、大いに他地域の参考になるだろう」とした上で、次のように訴えた。
「教科担任制については、国も教員の加配を進めていますが全く足りていません。各地では学校内に現有する教員のやりくりで実施している例が目立ちますが、それでは教員の受け持ち授業時数の削減にはつながりません。その点でも専門教員を独自に雇用した守谷市の取り組みは理にかなっています。ただし、自治体独自の財源には限界があります。また、自治体間の財政力には格差があります。守谷市のような事例を普及するには、国による財政出動が不可欠です」
(ジャーナリスト・高比良美穂、柴野聰=社会応援ネットワーク)
※AERA 2023年8月14-21日合併号