今や、社会全体の課題となっている教員の多忙化問題。その改善に向け、多くの自治体が対応に苦心する中、茨城県守谷市の独自の取り組みが注目を集めている。全国の学校関係者からの視察申し込みが絶えないという、その教育現場を取材した。AERA 2023年8月14-21日合併号の記事を紹介する。
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5時間目の授業の終わりを知らせるチャイムが鳴ると間もなく、全学年の児童が昇降口から一斉に飛び出してきた。
「家にランドセルをおいてから、〇〇の家に集合な!」
「今日も学童で一緒に宿題やろう!」
時計が午後2時50分を示す頃には、放課後の約束を交わす子どもたちの声で校門前が一気ににぎやかになった。夏休みを間近に控えた茨城県守谷市立松前台小学校の下校時刻の一場面だ。
「子どもたち、元気でしょう。毎日が6時間目まであった頃と比べて、午後の授業により集中できているようです。給食の後、あと1時間か2時間かでは、気分が違いますよね」
児童を見送りながら語るのは、守谷市教育委員会参事で昨年度まで同校の校長だった古橋雅文さん(55)だ。
公教育を市政の柱と位置づける守谷市では、文部科学省が推進する「学校の働き方改革」を先取りする形で、独自の学校教育改革プランを打ち出してきた。その目玉が「守谷型カリキュラム・マネジメント」と呼ばれる教育課程編成だ。
一般的に公立の学校では小学4年生以上になると、月曜日から金曜日まで6時間授業が行われている。しかし、守谷市では2019年度から、市内にある全ての公立の小・中学校(13校)で、週3日の5時間制を導入している。
例えば、小学校では「週3日5時間制」を実施することで放課後の時間が従前と比べて、週あたり2時間15分増加する計算となる。その時間を授業準備や研修にあてることで教育の質を向上させるとともに、早めに退勤できる環境を整えようというわけだ。
「学校が抱える課題が複雑化する中で、児童生徒の学びの保障と教職員の長時間勤務の改善を両輪で捉え、取り組みを進めてきました。子どもたちの学校生活にも良い変化が出てきています」
と古橋さんは胸をはる。
必要な授業時間数は、前・後期制の導入や夏休み期間の短縮、県民の日や終業式の日に授業を行うなど、年間カリキュラムの調整で確保している。