「予約の電話を入れて名乗ったら『もしや、あのサイバラか?』って言われて、しまったって(笑)。謝りながら店に入ったら、とてもさわやかに迎えられてホッとしました」
神足さんは気に入った店には家族を連れていったという。
「香港遠征で行った『福臨門魚翅海鮮酒家』。サイバラは低評価で、何十万円もした高級店の支店が銀座にあったので、家族を連れてランチの春巻きとフカヒレ入り蒸し餃子を食べました。ランチ価格だけど、あの絶品金華ハムが使われていた。鯛めしの与太呂にも家族で行きました」
2人は当時をこう振り返る。
「とにかく連載当時は担当者に迷惑のかけ続けで、取材後に2人で朝まで飲むのに付き合わせたし、麻雀で身ぐるみはいでしまったこともあった。本当に申し訳なかったと思います。私は漁師町の生まれで漁師メシを食べて育ったので、ニンニク、油、塩が利いている料理がおいしいと感じるようで、イタ飯に高得点をつけがちだったかも。逆にフランス料理がダメで厳しい採点になっていた。フランス料理のあの味が、塩分を少なくして楽しませる工夫だと知ったのはもっと大人になってからでした。そんな私が勝手に店を評価して、それも申し訳なかったと思います」(西原さん)
「連載開始の時、編集長からもらった『好きに事実を書いていい』という言葉が思い出深い。事実を書いていい=不味(まず)い店は不味いと書いていいから。できそうでできなかった一線を越えた取材だった。最後は酔っ払ってしまうこともあったが、色んな意味で真剣勝負の取材を毎回していた。だから、だんだん連載が長くなると、顔バレして店に入れてもらえないこともありました」(神足さん)
SNSや口コミサイトの発達で飲食店の評価があふれている時代だが、ここまでの「真剣勝負」は、今もなかなかないだろう。
※週刊朝日 2023年5月19日号より抜粋