エッセイスト 小島慶子
エッセイスト 小島慶子
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 タレントでエッセイストの小島慶子さんが「AERA」で連載する「幸複のススメ!」をお届けします。多くの原稿を抱え、夫と息子たちが住むオーストラリアと、仕事のある日本とを往復する小島さん。日々の暮らしの中から生まれる思いを綴ります。

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 もうすぐ新学期。大学で教えている知人たちは口を揃えて「今はジェンダーについて学ぶ講義が人気だ」と言います。私もジェンダーがテーマの特別講義やイベントなどで学生と接する機会がありますが、確かに関心の高さを感じます。日本は主要国の中でも際立ってジェンダー格差の大きい国。構造的な男性優位社会はなかなか変わりません。また、政治の中枢にいる人たちが女性や性的少数者を貶める発言をするなど、深刻な問題が繰り返されています。他国に大きく後れをとっているジェンダー平等の達成のためにも、基礎的な知識と正確な現状認識の共有が不可欠です。ぜひ、学校でのジェンダー教育と職場のジェンダー研修を必修化してほしいです。「読み・書き・そろばん・ジェンダー教育」です。

ジェンダー平等実現のためには基礎的な知識と正確な現状認識が必要だ(写真:gettyimages)
ジェンダー平等実現のためには基礎的な知識と正確な現状認識が必要だ(写真:gettyimages)

 人がものを学ぶのは学校や職場だけではありません。メディアを通じて、無自覚のうちに“学習”してしまうこともたくさんあります。私は大学卒業後、放送局の正社員として働き始めました。新入社員研修では、放送で差別や偏見を広めないよう人権研修を受けました。またアナウンサー研修でも、男らしさ・女らしさの決めつけになる表現について学ぶ機会がありました。ただ当時、ジェンダーに焦点を当ててしっかり学ぶ機会があったか、それが放送人として不可欠な知識であるという認識を教えられたかと言えば、そうではありませんでした。若い女性アナウンサーに求められる役割に違和感を覚え、女性蔑視や性的マイノリティー蔑視にあたる演出などに個人的に疑問を感じ葛藤しながら、知識を身につけ言葉を獲得したというのが実感です。ウェブメディアも含め、多くの人の耳目に触れる媒体で働く人は特に、ジェンダーの問題に敏感であってほしい。「学校でジェンダーを学び、働き始めたらジェンダー研修」を当たり前にしたいです。

◎小島慶子(こじま・けいこ)/エッセイスト。1972年生まれ。東京大学大学院情報学環客員研究員。近著に『幸せな結婚』(新潮社)。寄付サイト「ひとりじゃないよPJ」呼びかけ人。

AERA 2023年3月27日号