AERA 2023年1月2ー9日合併号より
AERA 2023年1月2ー9日合併号より

 A級昇級は、羽生は22歳。49歳で悲願の名人位に就いた米長邦雄(のちに永世棋聖、故人)は就位式で次のように言った。

「来年、あれが出てくるんではあるまいか」

 会場は笑いに包まれる。「あれ」とは誰を意味しているのか、その場にいる誰もがすぐにわかった。米長が予想した通り、羽生はA級1期目で挑戦権を獲得。米長から名人を奪った。

 藤井は2022年、19歳でA級に昇級。「神武以来の天才」と称された18歳の加藤に次ぐ年少記録だ。現在名人の渡辺は就位式で次のようにスピーチした。

将棋界では以前、米長先生が同じような状況で名言が残されていたんですけども」

 歴史は繰り返す。事情を知るファンならばみなまで言わずとも、渡辺が藤井を意識しているとわかる。藤井はA級1期目で名人挑戦権争いのトップに立つ。もし藤井が23年度20歳で名人位を獲得すれば、谷川の21歳を抜き最年少記録を更新する。

■五冠達成者は4人だけ

 羽生は22歳で五冠を達成。藤井は22年、19歳のときに渡辺から王将位を奪い、竜王、王位、叡王、棋聖とあわせて史上最年少で五冠となった。タイトル戦の数などが違うため、一概に過去と現在を比較はできないが、五冠達成者は大山、中原、羽生、藤井の4人しかいない。

 羽生と藤井は12月8日、棋王戦挑戦者決定トーナメント敗者復活戦決勝で対戦。藤井が勝ち、棋王挑決二番勝負でも佐藤天彦九段(34)を下して棋王挑戦を決めた。

 羽生は24歳で史上ただ一人の六冠を達成。20歳の藤井が棋王を獲得すれば史上2人目、そして最年少の六冠となる。

 1996年、羽生は王将位を獲得。25歳で史上初の七冠独占を果たした。もしこのまま藤井が勝ち続け、名人まで取れば羽生以来の七冠となる。

 17年に叡王戦がタイトル戦に昇格し、現在の将棋界は八大タイトル制となった。藤井が次の王座戦で挑戦、獲得となれば、最短23年の秋には史上初の八冠を達成する。

 17年、14歳の藤井は竜王戦本戦で佐々木勇気五段(現七段、28)に敗れ、連勝が29で止まるとともに、竜王挑戦まではとどかなかった。このとき竜王復位をはたしたのは、47歳の羽生だった。羽生は永世竜王の資格をも得て、七大タイトルの永世称号をコンプリート。将棋史上初の国民栄誉賞を受賞した。

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